第41話 フローラさんが喰われる?

No41

フローラさんが喰われる?





 仕事の終わりにフローラさんを送る事になり、フローラさんが夕食を食べていない為、ご相伴にあずかることになった。


 フローラさんが幾つか懇意にしてる店の一つに向かって歩いてる。

「今、向かってるのは創作料理が幾つもあって美味しいのよ。季節ごとや仕入れ品によってメニューが変わったりするの。固定メニューもあるしワインも揃えていて、お店の雰囲気もいいのよ。わたしが、懇意にしてる店の一つよ!」


 ほぅ、なるほどね。美味しい料理は大歓迎だな。ワインも種類があるなら楽しみだな。


 お店に着き扉を開けるとカランッ! っとドアベルが鳴り響いた。

「いらっしゃい....あら、フローラじゃない!」

「ナンシー、久しぶりかな?」

「そうよ! 最近は顔も見せないんだからっ!....そちらはお連れさん?」

「えぇ、セイジロウよ」

「はじめまして、セイジロウです」


「ノクティスの店にようこせ! わたしは、ナンシーよ。フローラとは親友ね。セイジロウさん、好きな席に座ってよ!」


 と、店の中を見渡すと気軽に入れるBARといったお洒落な店内だ。調度品もキラキラした感じではなく、アンティーク調で纏められてる。アダルト層に人気がある感じだな。


 店内の客を見ると若層より中層の人達が多い。テーブル席が五席にカウンター席が十席。

 俺とフローラさんはテーブル席ではなくカウンター席の端に座った。カウンターの向こうには、酒瓶が飾られていて銘柄は分からないが多分、貴重なグラス出しなのだろう。


 そして、店内を観察してると男性が声をかけてきた。

「やぁ、はじめまして、ノクティスです。この店の店主をしてます。フローラさんも久しぶりです」

 と、爽やかな青年が現れた。


「今日は久しぶりだから楽しみにしてるわ、ノクティス。そして、こちらがセイジロウさんよ」

「はじめまして、ノクティスさん。セイジロウです」

「ノクティスで構わないですよ、セイジロウさん。フローラさんが連れてきた人ですからね。今日は、楽しんでください。では、またあとで」

 と、店内の奥へと下がっていった。


「あの人はシーナの夫よ。若く努力家で以前シーナと一緒に食べに来たときに、シーナが惚れてね。そのまま押し掛けて結婚したのよ」

「そうなんです、シーナさんはやりますね。....にしてもまだ若い感じがしましたけど」

「ノクティスはまだ、二十二歳よ。シーナとは八歳違いよ。まぁ、コレぐらいなら珍しくないわよ。一般では五歳差なんて当然だし、十歳差なんてゴロゴロしてるわよ。貴族なんて、十五、二十歳差だってあるわよ」


「わぁ....凄いですね」

 年の差婚かぁ....前の世界でも話には聞いてたけど他人事だったし、周りは大体が同じくらいの年齢婚だったからな...


「女性は若くに結婚し子供を産むのが当たり前だしね.....わたしは、乗り遅れちゃった感じね....はぁ...」

「そんな事ないですよ。フローラさんは魅力的な女性ですよ。確かに若さは武器ですが、年齢を重ねた女性としての魅力は、若さだけじゃ足りません。フローラさんの様にね」


「あなたは....」

「はい! お待たせしましたー。生ハムのサラダとブラックバードの香草焼きです。ワインはブリネー産ですね!!」

 と、ちょっといい雰囲気だったのに女性の店員が....空気読もうよ....今、良い感じだった? よね......


「フローラさん、久しぶりですねー! 今夜は男連れなんて.....いつの間に!!」

「ちょっ、違うわよ! たまたまよ、エンリ! あまり変な事言わないでっ!」


「ええー、ちょっと良い雰囲気だったじゃないですかー!! フローラさんもやりますねぇー!」

「エンリ、口の滑りが良いのはしょうがないけど、あまり怒らせるとハンナに言うわよ? フフフ」

 フローラさんの笑顔が笑顔じゃない顔でエンリさんに忠告をした。


「あー、ごめんなさいっ! だから、お姉ちゃんには内緒で!! ねっ、フローラさん、久しぶりだったからついね?」

「まったく、分かればいいにのよ。さっ、仕事があるでしょ?」

「はーい!では、ごゆっくりっ!」


 次から次に出てくるなぁ.....でも、雰囲気読んだんならもう少し待っていてくれても良かったよね?


「あの子は、エンリでここの店員ね。あんな感じでだけど、仕事はちゃんとするし、お客さんにもウケはいいのよ。さっ、冷めない内に食べましょう!」


 と、早速ブラックバードなる肉をナイフで切りフォークで刺して食べる。


 口に入れ噛んだ瞬間、肉汁が溢れてくる。程よい肉の食感に香草の香りが鼻を抜ける。そして塩とコショウと香草の味が絶妙で食欲を誘い唾液と肉汁が口の中で混ざり合う。


 うまーーい!!


 肉を飲み込み、ワインを口に流す。重厚なワインが口内に広がるがブラックバードから溢れた肉汁をワインが胃へと流し混んでくれる。口の中に残ったのは、ワインの後味と豊かな香りだった。


 いいね!いいねぇ!!


 サラダも食べる。生ハムは塩が効いていて旨い。さらに、新鮮な野菜と一緒に食べると野菜の水分と生ハムの塩味が混ざり合い旨さに拍車がかかる。


 ドレッシング無しでうまいよぉー!!


 サラダでもワインは進む。ブラックバードの時には感じなかった風味がサラダを食べたあとは感じる。生ハムの塩気と濃厚なワインの味が口内で混ざり合い、甘さを感じる。


 てか、ワインが旨いなぁー!!......高いヤツ?!


 よく考えて作られたメニューだ。単品で食べても旨いし、ワインと組み合わせて味を楽しませてくれる。


 前に世界では、感じた事がなかった美味しさだ。高いレストランに行っても、ここまでの旨さは感じなかった。


「どう、セイジロウさん? ここの料理は?」

「はい、とても美味しいです。この組み合わせはすでに完成されてます。もし、この料理の一つでも違う品だったらダメでしょうね」

「ずいぶんと高評価ね! ノクティスも喜ぶわ」


「こんなにも美味しい料理を出すお店を知ってるなんて....フローラさんも意地悪るですね」

「あら? 酷いわね、せっかく紹介したのに....もうセイジロウさんとは来ないわよ?」


「冗談ですよ、またご一緒しても良いですか? 一度きりでは名残惜し過ぎますよ」

「次は、セイジロウさんがエスコートしてくれるならね」


「お任せください。私が、エスコートしましょうフローラさん」

「フフフ、楽しみにしてわよ。セイジロウさん」


 やったね!! 次のデートの約束をしたぜー! 少しはフローラさんとの距離も近くなってきたかな?


 一息ついたとこでシーナさんがやって来た。

「料理はいかがかしら? フローラにセイジロウさん」

「美味しいわよ、シーナ。セイジロウさんも美味しいと笑みを浮かべながら食べていたわよ」

「はい、すごく美味しかったです。次回来るのが楽しみですよ」

「あら! ずいぶんと気にいったみたいね。それとも、フローラと一緒だからなのかしら?」

 シーナさんが少しからかいながらフローラさんな言った。


「ちょっと、シーナ! 詮索は禁止よっ!」

 フローラさんは、少し顔を赤くしながらそんな事を言った。


 顔が赤いのは恥ずかしいからですか? それとも、ただ怒ってるだけですかね?


「まったく、ここは料理店よ。ギルドじゃないんだから....で、どうなの ?セイジロウさん?」

「えぇ、それもありますね。フローラさんと一緒に食べる料理はどれも美味しいですよ。このノクティスは特にですかね?」


「あらあら、そうなの? そう!! ふふふ、まぁ、ゆっくりしていきない。ワインとエール、蒸留酒もあるし、他国のお酒もあるわよ?どうする?」

「私は、蒸留酒を。フローラさんは?」


 そう話を振られたフローラさんは憤慨しつつ俺とシーナさんのやり取りをどこか嬉しそうな顔をしなが答えた。

「シーナはいつもそうなんだから! グイグイくるから....もぅ......わたしはワインよ! それと美味しいのおツマミをお願いね、ノクティス夫人!」

「はいはい、じゃ頑張ってねフローラさん」

 と、シーナさんは注文をとって下がった。


「気を悪くしないでね。シーナはもっと気遣いが出来るのよ。今日はたまたまわたしが久しぶりに来たから、少し舞い上がってるだけなよ?」

「えぇ、分かってますよ。フローラさんも気にしないでください」


「お待たせしました。フローラさん、お久しぶりです。お連れの方ははじめまして」

 と、初めて見る店員がさっきシーナさんに頼んだオーダーのお酒を持ってきた。


「ハンナ、久しぶりね。元気にしていたかしら?」

「はい、フローラさん。フローラさんも元気そうでよかったです。こちらの方は?」


「セイジロウさんよ。今日はわたしの夕食に付き合ってもらったのよ」

「そうですか、ハンナと申します。以後お見知りおきを」


「はじめまして、セイジロウです。こちらこそお見知りおきをハンナさん」

「なかなかの男性ですね、このあとはフローラさんをパクリですか? フローラさんも食べちゃうんですか?」


 オイオイ、いきなりだな.....見た目は清楚な感じを出してる女性店員なのに。


「まさか、そんな事はないですよ? ねぇ、フローラさん?」

フローラさんの顔を真っ赤にして俯いて何かブツブツ言ってる.....えっ? ありっすか?


「えっと....ちょっとフローラさんには刺激が強かったのかな? 出来ればもう少し言葉を選んでくれると助かるかな?」

「分かりました。少し飛ばし過ぎましたね。お水も置いておきましから....では、ごゆっくり」


 フローラさん大丈夫かな....


「フローラさん、お水です。大丈夫ですか?」

「あっ、あり、ありがとう。......ふぅ.....何なのよ....」

 フローラさんは顔を真っ赤にしながら受け取った水を飲み干していった。


「いつも、こんな感じなんですか?」

「なわけないでしょ!! あんな....もう少しオブラートに話してくれるわよ。あそこまでじゃないわ!」


 とすれば、何かしらの思惑があるのか?ずいぶんと直球だったし....


「フローラさんは、ノクティスに来るときは一人なのですか?」

「そうね...一人が多いわね。たまに、アンナさんとも来たりするわよ?」

「総合部のアンナさんですか....男性とはあるんですか?」


「男性は.....ないわよ。セイジロウさんが初めてね....でも、あれよ、今日はたまたまよ? 夜も少し遅かったし、ちょっと疲れたから自宅近くで美味しいお店だと、ここしかなかったのよ?」


 あぁ、からかわれた感じで初めて連れてきた男性が俺ね......なら、フローラさんの好い人と見られてるわけか....


「そうですか、まぁ少しからかわれたんでしょうね。フローラさんは、恥ずかしいがり屋さんですから....」

「別にっ、そんっ、そんな事ないわよ。ただ、ちょっと、ねぇ、恥ずかしいじゃない? あなたは恥ずかしくないの?」


「まぁ、男ですしね。大人ですから?」

「なっ! わたしも大人よ! たまに、有るわよね、セイジロウさんのそういうところ。なんなの? 恥ずかしいのはいけないのかしら?」


「別に悪いとは言ってませんよ? フローラさんは今のままで良いと思いますよ。私がリードしますから? ねっ?」

「えっ?....その....わたしは....」


 クゥ~~~~この恥ずかしがる顔がまたそそりるなぁ。なんで、まだ独身なの? どっかのお嬢様なのか?


「はーい! 失礼しますっ! おつまみですよ! 生ハムとチーズです、美味しいよ。あれ?セイジロウさん?」


 またかよ.....さっき空気読まなくてフローラさんに怒られてましたよね?

「シーナさん....邪魔してます?」


「そんな事ないわよ? フローラだってねぇ....でも、まだダメよ! もっと恥じらうフローラをわたしは見たいの!! だから、男に慣れちゃうフローラはイヤなのっ! 分かる? セイジロウさん、まだ、ダメよ?」


 えぇー、ダメなのかよ....


「フローラもしっかりしなさい! そんな風だとすぐにパクリっとされちゃうわよ。しかも、それだけじゃないわ。わたしの勘では、骨抜きにされるわよ? ベッドに入ったが最後、あんな事やこんな事、お触りに舐められ最後には......」


 この時点で、フローラさんは頭から白い煙を出してショートしてた。

 ホントにフローラさんはアッチ方面に免疫がないんだな.....


「で、シーナさん。どうするんですか、この状況? 少しからかい過ぎじゃないですか?」

「えへへ~やり過ぎちゃった。テヘ!」

「いや、可愛くないですから....せっかく久しぶりの食事だったのに...」


「いやー、ごめんなさい! 噂のセイジロウがどんな人なのかちょっと興味があったし、フローラがずいぶんと構ってるらいしからさ!」


「やっはり。するとシーナさんは元冒険者ですね? 気配も希薄だし、身のこなしも何かしらの技術を感じますよ?」

「あら? さすがに気づくかしら.....それに、フレンチトーストは業界でも噂は広がってるからね。商売敵の情報は集めなきゃね」


「あー、そっちですか。フレンチトーストはギルド員限定販売に数量限定ですから、気にしなくて大丈夫ですよ?」

「まぁ、それだけならね? まだ何かもってるんでしょ?」


「そりゃ、冒険者ですからね。手の内は見せませんよ。シーナさんもだからこそ、私達を仕事中見てたんですよね? さらに、エンリさん、ハンナさんにも指示を出してフローラさんの反応も確認してた?」


「ハハハ、なかなかやるじゃない。まぁ、初見は合格よ! でも、わた--スパーンっ!!....イッターイ!誰っ....よ?」


 シーナさんは頭を後ろから殴られ振り向くと、そこには旦那さんのノクティスさんが立っていた。


「シーナ、お客さんを試しちゃダメだっていったよね? しかも、フローラさんだよ? 友達とはいえやり過ぎじゃないかな? セイジロウさんもわざわざシーナに付き合ってくれてるんだから」


「えっ? ノクティス、ごめんね。やり過ぎたのは謝るけど....セイジロウさんが付き合ってくれてるって?」


「セイジロウさん、すいませんでした。シーナには僕からちゃんと叱っておきますから。それと、マダラでしたね。従魔には帰りにお土産を渡しますから」


 ありゃ? ノクティスさんは感づいてるのか.....もしかして、ノクティスさんも元冒険者?


「ノクティスさんも元冒険者ですか?」

「そうですよ、僕は斥候型で気配には敏感なんですよ。だから、途中からですが探りました。普段はしませんよ、今回はシーナをちょっと叱るために....色々すいません」


「そうですか? 私も途中から少し可笑しいと思って....こちらも勝手にマダラを使ってしまった事を謝罪します。マダラも挨拶して」

 と、言ったら俺の影から尻尾だけを出してフリフリと振った。


「えぇー、何あれ? 何あれっ?! ノクティス、何あれ? ねぇねぇ!? 尻尾?シッポ?」

「はいはい、落ち着こうねぇ~。ハンナ、シーナを連れてって」


 マダラの尻尾を見たシーナさんが興奮して騒ぎ始めた。ハンナさんが後ろから羽交い締めにして引きずりなが連れてった。


「噂は聞いてますし、実際、マダラの姿も見ましたよ。しかし....いえ、詮索はご法度ですね。フローラさんはどうしますか?」

「どうしましょう? 実際、自宅は知らないんですよね?」


「なら、シーナに頼みますよ。僕も一緒に送ります。本当ならセイジロウさんに頼むべきなんですが、これ以上の面倒は避けたいのでは?」


 だなぁ~、ちょっと疲れたかな。まぁ、俺も調子に乗ったしフローラさんの事もからかい過ぎたからな。ノクティスさんに間に入ってもらうのが一番かな?


「頼んでもいいですか? 私は、フローラさんと仲良くしたいんです。出来ればノクティスさんに間に入ってもらえると助かるんですが?」

「良いですよ、シーナの件もありますし、セイジロウさんとは仲良くしたいのはこちらも一緒ですから」


 よかった。じゃ、あとは任せて帰りますか....しっかりお土産ももらったし、今回の料理もご馳走になっちゃった!

ラッキーっ!!


 ノクティスさんは良い人そうだから、いつかの計画にも考えとこうかな?

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