第18話 フレンチトーストと新作の予告
No18
フレンチトーストと新作の予告
今日は肌寒さで起きた。俺が泊まっている"森の恵み亭" は高級宿ではない。普通の宿だ。多少の隙間風があっても仕方ないし、ベッドが固くても文句は言わない。
しかし、これが氷雪季間近じゃなければだ。
やはりこの間の買い物の時に毛布かローブ、コートを買っておくべきだったな....
体を少し震わせながら手早く着替えて階下へ降りていく。
「おはようございます」
「セイジロウさん、おはようございます。朝食を用意しますね!」
「はい、ありがとうございます」
女将のアンさんが用意してくれた朝食を食べ、身も心も温かくなり部屋に戻り、身支度を整えたら冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドのピーク時間は過ぎたとはいえ、まだそれなりに冒険者はいた。
最近は少し顔を覚えてくれたり、ギルドの食事処に来てくれる冒険者もいたりして顔見知りになる冒険者もできた。
「おっ?! セイジロウか? 朝から仕込みか?」
「はい、そうです。しっかり売らないと生活出来ませんから」
「ははは、売れ行きの噂は聞いてるぜ! 夜も売ってくれると有りがたいがなっ!」
「そうしたいんですけどね....まだ、少し難しいですよ」
「そうか.....まぁ、料理は俺には分からんからな! 食う専門だ! だが、期待しながら待ってるぜ、プリンっ! じゃ、またな!」
こうして世間話ができるぐらいには、この世界にも慣れてきた。
今日もプリンの仕込み.....いや、先にフローラさんとこに.....
受付嬢のアリーナさんに話しかける。
「アリーナさん、おはようございます」
「セイジロウさん、おはようございます。今日は依頼ですか?」
「いえ、ちょっとフローラさんに伝言を頼めないかと....時間が開いたら食事処にちょっと来てもらいたい。と、伝えてもらいますか?」
「別に良いですけど....あまり私達を軽く扱わないようにして下さいね。これでも、冒険者ギルド職員ですから」
「ごめんなさい、アリーナさん。でも、頼れるのはアリーナさんとフローラさんぐらいしかいないんですよ。もちろん、お礼はしっかりしますよ。プリンを用意しときますから、フローラさんと一緒に来てください」
「はいっ! わかりました、伝言は必ず伝えます」
プリン様々だな....
「じゃ、プリンの仕込みがあるので戻ります」
いつも通り風魔法の撹拌でチャチャっと作り、陶器に移して蒸しあげて、氷魔法で冷却と。あとは魔冷箱に保存して、販売の売り子に伝言を書いて終了っとね。
我ながら完璧だな....さて、まだフローラさんもまだ来ないしな....フレンチトーストでも食べよっかな...
で、フレンチトーストを焼いてると、
「セイジロウさん、フローラさんを連れてきましたよっ! 良い匂いですねっ!」
「あぁ、タイミングが良いですね。なら、新作の試食します?」
「良いんですかっ?! 試食しますっ!」
と、アリーナさんは両手に握りこぶしをつくりながら言う姿はやはり可愛い。
「セイジロウさん、わたしにもいただけますか? 以前にも食べましたが、美味しかったので...」
「えっ!? フローラさん、食べた事があるんですか?」
「えぇ、セイジロウさんとの勉強会でね。その時食べた味はとても美味しかったわよ」
「えぇ~~~~! フローラさんだけズルいですよっ! たまにプリンも食べてるし!」
「どれもセイジロウさんからの報酬よ。金銭のやりとりも露骨過ぎるし、適正が分からないからそうしたのよ。別にズルくないわよ」
と、話が飛び火しそうな雰囲気だったので、出来上がりをカウンターに置いた。
「はい、出来ましたよ。アリーナさん、焼きたてが美味しいですから先に食べて下さいね。」
「わぁあっ!! ありがとうございますっ!」
「フローラさんは、もう少し待っていて下さいね」
「分かりました。しかし、良い匂いですね。この匂いを嗅いでしまうと職員の気が散るのも理解はできます」
「もう少し人手があれば、販売も出来るんですけど、さすがに1日中雇うのも何ですからね...」
「出来なくはないですが、体裁が良くないですし何よりアンナさんに借りを作る事になりますよ?」
「ハハ、それはちょっと避けたいですね...と、ハイ、出来ましたよ」
「今、飲み物用意しますね。アリーナさんも飲みますよね? 紅茶で良いですか?」
「はいっ! ありがとうございます! コレ、すごく美味しいですよっ!!」
「ありがとうございます。フレンチトーストって言うんですよ。販売予定は無いですが、宣伝して置いて下さいね」
「分かりましたっ! 特別メニューですねっ!」
「セイジロウさんは、なかなか商売上手ですね。ギルド職員を甘味で手懐け販売の宣伝に利用ですか...」
「フローラさん、人聞きが悪いですよ。ただのお願いですよ。....で、フレンチトーストは美味しいですか?」
「....えぇ、美味しいわよ....」
素っ気なく言ってるが、ニヤニヤが隠せてませんよフロア長?
「それは、良かったです。それで、お呼びした理由なんですが、貸家の相談と装備の相談をしたいので時間を作って欲しいのですが....」
俺は、二人に紅茶を用意しながら本題を話はじめた。
「自立をするのですか? プリンの販売ですか?」
「いえ、違いますよ。収入の目処も着いたので宿を出て暮らそうかと...それに冒険者としての本分も氷雪季が終ったら始めようかと思ってますし....」
「そうですか....相談に関しては分かりました。明後日なら休みですので、お話を伺います。ギルドの一室で良いですか?」
「出来ればついでに、服を身繕ってくれませんか? 普段使いが良くて長持ちする服が欲しいんですよ...」
と、切実な願いを伝えた。だって、替えの服も1着しかないし、こっちに来た時に着ていた服もそろそろよれてきたんだよ。
この世界にクリーニングもないし、全自動洗濯機も無いんだぜ? みんな手洗いだから、服がすぐに傷むんだよ....
貴族とか商人とかの服の手入れは、服飾点に預けて手入れをしてるみたいだけど、金がかかりすぎるから今は無理っ!
それに、寒くなってきたから暖かい服が欲しい。ついでに、情報収集もあったり....あわよくばのデートお誘いですっ!!
「分かりました、良いですよ。私もちょうど服が欲しいと思ったのが今日でしたから。朝が、肌寒く感じたので....」
「そうですかっ! ありがとうございます。では、明後日に」
約束が取り付けられてホッとしてると、
「あの~~、一応ギルド内なので堂々と逢い引きの約束をしないで下さいね。見てるこっちが恥ずかしいですよ?」
「やだな---」
「逢い引きの約束なんてしてませんよっ!! ただの相談の一貫ですよ、全く。そうですよね、セイジロウさん?」
と、全力否定からの同意要請.....
「えっ、えぇ、逢い引きの約束ではないですよ、相談に対する協力ですよ....」
「ほら、見なさい! アリーナはいつも大げさな反応をするのだから.....そういうのは感心しません。さっ、話も済みましたから仕事に戻りますよ。では、セイジロウさん、ご馳走さまでした」
「はぁ....セイジロウさん。ご馳走さまでした。(がんばれー)」
と、デートの約束ではなく、相談の協力を取り付けられたのはヨシとしよう。
明後日に向けての予定を組み立てつつ、このあとは魔法の鍛練に励みますか.....
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「魔法って以外と自由度が高いよな....」
フローラさんに借りた本と自分で買った魔法について書かれた本を読みながら考えた事だ。
ちなみにフローラさんから借りた本はすでに、写本を手元に残し返却した。今は、自分の買った魔法について書かれた本を写本してる。出来上がったら、買った本は売りに出すつもりだ。
で、魔法についてだが.... 一応の分類はされてる。地、水、火、風の基礎がありそこから、【派生する属性】【根源的な光と闇】、【特殊な時と空間】などだ。
実際には、ほぼ基礎属性が一般的らしい。俺とフローラさんが使った氷属性は珍しく使い手も多くはないが、それなりにはいるそうだ。ただ、それ以外となると極端に少なくなるらしい。
(ソースは、フローラさんと俺の本な)
それと、良くある異世界ファンタジーでの属性縛りは無かったし、魔法の格差社会も今は感じない。
もちろん、秘伝とか継承とか禁忌とかの秘密的魔法は存在する。呪術や死霊に関する魔法がそれにあたる。魔法の使用を確認された人は厳しい罰が下されると書いてあったりした。
最悪は死刑だな....斬首に縛り首、焼き討ち、拷問死とか....
他にも、動物や魔物を使役する契約魔法に、精霊や霊獣といった力ある者を呼び出し使役する召喚魔法もある。
契約魔法には、相性や運などの要素が強く誰もが学んだりして覚えられるわけじゃない。幾つかの分かっている事柄はあるが、ハッキリした筋道は確立されていない。
召喚魔法に関しては、呼び出すものに対しての媒介や力の源となる物と魔力があれば大抵が召喚できると記述があった。
かつては、竜に似た召喚や大いなる力を持った精霊を召喚したなどの話もあったと書いてある。
テイマーや召喚魔法に憧れながら想像してしまうと楽しくてしょうがいない...グフフ
俺の戦闘力を補う為にもテイマーや召喚は覚えたい。あとでそれに書かれた本があれば買いたいな....
と、考え事をしてると時間が経つのが早い。すでにギルドの鍛練場から見える空は赤みを差し始めていた。
そろそろ、ギルドの食事処のビルドさん所に行く時間だ。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
フライドポテトのお陰かビルドさんの料理の腕か、はたまた違う理由かは分からないが、働き始めの頃よりは客である冒険者の数が増えた気がする。
フライドポテトも売れるし、ビルドさん自慢のモツ煮込みスープも売り上げがあがった。エールもワイン割りも売り上げが伸びたそうだ。
「ワハハハっ! 今日も売れたなっ! 最近になって冒険者達もよく立ち寄るようになってきた。セイジロウのフライドポテトも良く売れる。セイジロウに感謝だなっ!」
「別に気にしなくて良いですよ、アレは自分の為です。金を稼ぐためにした事ですから」
「だとしても、この売り上げの一端を占めてるんだ。俺が多少感謝しても良いだろうっ?」
「まぁ、良いですけど....」
「なら、納得してけ!...で、明日は休みなんだよな、お前?」
「はい、急ですいません。」
「まぁ、ダメとは言えねぇからな....明日は3人か.....ちょいと忙しくなりそうだが、何とかするさ」
「今日の昼間に仕込んだプリンがありますから、それを明日3人で食べてください。俺からの迷惑料です」
「おぉっ! 良いのか? そりゃ、ありがたいな。これでリーナとエリナも張り切って仕事をするだろうなっ!」
「えぇ、そうだと良いですね....あっ、それと氷雪季に向けての新作を考えてますから、またレシピを買ってくれますか?」
「ほぅ....試作が旨ければなっ」
「はい、備え付けの窯を借りても平気ですか?」
「そりゃいいが.....その新作は窯を使う料理か?」
「えぇ、そうですね。使いますが...何かあるんですか?」
「窯を使えば薪も使うから、自然と値が上がるんだよ。その新作が旨ければ窯を使った料理構成にしなきゃなんねぇだろ?」
「そうですね.....じゃ、俺の方でも幾つか案を考えますよ。別に、今すぐじゃないですし、ダメならダメですよ」
「そうだな、まずはお前の新作からだ。掃除はしておくから2.3日後からなら使えるぞ」
「分かりました。ありがとうございます...じゃ、宿に戻りますね。またっ」
と、ビルドさんとの話も終わり宿へと戻っていつも通りにして就寝した。
ちなみに、リーナとエリナは仕事が終ったら今日はすぐに帰ってしまった。
明日は、フローラさんとの買い物かぁ.....
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