第9話 プリンとフローラ

No9

プリンとフローラ






 やって来た、フローラさんとの勉強会。


 昨日はフローラさんに渡す報酬の為に、材料を街の市場で買い揃え、"恵みの森亭" の調理場を借りて試作した。


 試作品は調理場にいるご主人と女将さん、シーナとニーナに食べてもらった。かなりの好評価を受けた。やはり、この世界で異世界ファンタジー知識は役にたった。甘味は正義だった!!


 さてと、朝食も食べたし今日は冒険者ギルドで勉強会だ。

 フローラさんと二人きりっ!


 もしかしたら、ムフフな展開もアリか?教師と生徒のラブは異世界物でもアリだったしなっ!


「女将さんっ! では、行ってきますっ!」

「はい、行ってらっしゃい、セイジロウさん」


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 時間は戻って前日


「女将さん、ちょっと相談があるんですが....」

「はい、セイジロウさん。何ですか? ちなみに、私は主人一筋ですし、娘はまだ嫁に出しませんよ?」


「イヤイヤ、いきなりなんですか....まぁ、女将が魅力的でその娘さんは将来に期待が持てますが...話は違いますよ。実は、私の出身である国の甘味を作ろうかと思いまして....この国には無さそうなのですし、ちょっと国の甘味が食べたくなりましてね」


「まぁっ!! 甘味ですか?! どんな甘味なんですかっ?」


 おおっ! かなり食いついたな。まさか、甘味で女性は釣り放題か?


「はい、甘くて美味しいですよ。冷やすとさらに美味しいですし手軽に作れる甘味ですよ」

「そうなんですかっ!? なら、食べさせてくれるなら調理場を貸してもいいですよ」 


 話が早くて助かる! あとは、材料も手に入るか?


「助かります、あと卵と砂糖と牛乳はありますか? それに、熱に強い陶器と冷蔵庫....食料を冷やせる道具はありますか?」


「う~ん、あるにはありますが食材はお客様の料理に使いますし、少量だとしても提供はできませんね。調理道具ならお貸し出来ますが....食材を冷やせる道具はありますよ。"魔冷箱" がありますからね」


 ちなみに、魔冷箱は冷蔵庫と同じ物らしい。魔物から取れる魔石を利用して作った魔導具の一種だそうだ。需要はあるが高い。大体小金貨5枚ほどになる。


 ちなみに、小金貨1枚で10万ぐらいだ。


「分かりました、材料は用意しますので調理道具を貸してください」

「分かりました、主人には伝えときますから声をかけて下さい」

「ありがとうございます。では、ちょっと買い出しに行ってきます」


 俺は、街の市場に向かった。必要なのは、卵と砂糖、牛乳。あとは、香りを付けたいからな...甘い匂いするものがあれば良いな....


 市場にはたくさんの人で溢れていた。どの露店も活気があり街が賑わっていた。


 俺は、小売り屋で材料を仕入れて手早く宿に戻った。


「戻りました....あれ? 女将さんは休憩かな?....調理場は借りれるかな? すいませーん、ご主人はいますかっ?」


 声をかけながら調理場を覗くと、

「なんだっ! 客は入るなっ!」

「いっ、いえ! 女将さんから調理場を借りる約束がありまして、話はいってるはずなんですが....」


「あっ? あぁ、言われたな。じゃあ、お前がセイジロウか?」

「はい、セイジロウです。はじめまして」


 ご主人は、強面系の顔をしていたが、話せば分かる人なんだろう。すぐに、頭を切り替えて話をしてくれた。


「今日は、私の異国で作られてる甘味を作ろうかと思いまして....少し調理場を借りて良いでしょうか?」


「異国の甘味か.....あぁ、そっちを使ってくれ。今は夕食の仕込み中でな。道具は適当に使ってくれ、分からなければ声をかけてくれていい」

「はい。ありがとうございます。では--」


 幸い、調理道具は充実していたが蒸し器がなくて代わりにフライパンで代用した。


 まぁ、独り暮らしの杵柄で作った事はあったから調理自体はなんなく終わった。ただ、やはり砂糖が高くて少量しか手に入らなかった。かわりに、蜂蜜が手に入ったから半分は蜂蜜入りになったけど...


 あとは、香木が手に入った。本当はバニラエッセンスが欲しいがそんなのは異世界にない。


 だが、甘く良い匂いのする香木が手に入ったからこれで香りはつけられる。

ちなみに、この香木はラニの木っていう木から取れる香木だ。


「あとは、冷やすだけっと....よし。しばらく、冷まさして下さい。一応、皆さんの分も作ったので後でお渡ししますので.....」


「おう、悪いな....俺は宿屋の料理を担当してるダートだ。ちなみに、アンの旦那だ。手を出したら切り刻んで、ゴブリンのエサにしてやるからなっ!」


「わっ、分かってますよ。手は出しませんよ....では、またあとで」


 さてと、今日は1日ゆっくりしたいがそうも行かないよな....

 また、食事処の依頼を受けるか...


 冒険者ギルドへと向かい受付でギルド併設の食事処の給仕依頼を受けると、フロア長のフローラさんに声をかけられた。


「セイジロウさん、今ちょっと良いかしら?」

「はい、フローラさん。大丈夫ですよ」

 相変わらず、美人だな。彼氏とかいるのか? でも、彼氏って概念はあるのか?


 無くはないだろうが、彼氏=婚約者になるのかな?


「明日なんだけど、ギルドの一室を借りて行おうと思うのだけど、良いかしら? お互いの為にも色々いいかと思ってね。都合が悪いなら、セイジロウさんの意見も聞くわよ?」


「いえ、大丈夫ですよ。報酬も用意出来そうですし、フローラさんに任せます。私は、読み書き計算を教えてくれるなら場所はどこでも良いですから」


「そっ、そう。分かったわ。時間は、朝食を食べたらゆっくり来てくれる。あまり早くてもね。私も休みの朝はゆっくりしたいから....」

「はい。分かりました」


「ギルドに来たらアリーナに声をかけてちょうだい。言伝はしておくから」

「色々、ありがとうございます。報酬は期待してくれて良いですからね」


 と、ギルドの依頼も受けたし、フローラさんとの依頼の方も大丈夫そうだな。

 夕方までは街中を散策して情報収集をするか......一般常識だけどな。


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フローラ視点


 案外とすんなり条件を飲んだわね。ギルドの一室なら何か起こっても職員もいるし、鎮圧は問題ないから私に取っては良かったけど....


 まぁ、見た感じ戦闘能力は低いし、ギルドを敵に回すほど頭は悪くないでしょうけどね。


「フローラさん、さっきの話はなんですか?」

 受付嬢の一人が声をかけてきた。


「あぁ、さっきの....セイジロウさんって言うんだけど数日前に街に来た異国の旅人よ。どうやら、文化が違って身の振り方に困ってるらしくてね。結果から言うと、私がちょっと助けようと思ってね」


「えっ? わざわざ、フロア長がですか?大丈夫なんですか? ちゃんと調べてあるんですか?」

「まぁ、平気よ。彼を事情聴取したのは私だし、話もきちんとしたわ。明日もギルドの一室を借りるから、安全は確保してるわよ。心配はいらないわ」


「なら、良いんですが....あまり危ないことはしないで下さいね。」

「えぇ、心配してくれてありがとう。さっ、仕事にもどりましょうか」


 やっぱり、軽率だったかしら...でも、もう受けちゃったし....

 明日の状況次第では、継続するかは要検討かしらね。あまり、回りに心配をかけるのは良くないし、ギルド内の風紀も下手に悪くなると問題だし。


「さっ、気を取り直して頑張りますしょうか!」


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 時間は戻り現在は、午後のティータイムをフローラさんとしている。


 今日の勉強は、真面目に終わった。特にムフフな展開はなかった。まぁ、そうだと思ったよ。異世界ファンタジーだと言ってもいきなりそんな展開になるわけがない。


「セイジロウさんは、飲み込みが早いですね。計算問題も簡単に解いてしまったし」

「まぁ、数字が読めればあとは出来ますからね。基礎的な文字を頭に入れて読み書きが出来れば何とかなりそうです。今日は本当に有意義な時間でした」


「えぇ、わたしも教えたかいがあったわ」

「では、これが報酬の甘味"プリン" です。味は二種類あります。砂糖が思った以上に高価で1つはハチミツになってしまいましたが、味は保証しますよ!」


「あら、可愛いらしいわね」

「えぇ、プルプルしてるからプリンなんです。こっちが、砂糖入りでこっちがハチミツ入りになります。食べてみて下さい」


「えぇ、いただくわ......っ!!....んっ、うふふ!! 美味しいわ、これっ! さすがに驚きだわ。このプリンは、作るのが難しいのですか?」

「いえ、材料があれば誰でも作れますよ。砂糖が高価ですけど、ハチミツなら安く出来ますしね」


「そぅ....こっちがハチミツね。......ん~~~~! こっちも美味しいわねっ! ふふふ、セイジロウさんに感謝するわね。久し振りにこんな美味しい甘味を食べたわ!」

「はい、ありがとうございます。....私のも食べますか? 私はまたすぐに、作れますし...」


「いっ、いいの? 本当に?」

「はい、どうぞ」


 プリンを食べてるフローラさんは少し子供っぽいな。あの美人なフローラさんがこんな顔をするなんてな....プリンで美人が釣れたか?


「.....ところで、セイジロウさん。このプリンの作り方を教えてくれないかしら?」

「それは.....難しいですね。コレを教えたらフローラさんは自分で作ってしまうでしょ? そうしたら、私の有利が失くなってしまいますよ」


「そうよね....まぁ分かってたわ。ダメでも聞いてみたかったんのよ」

「また、作ってきますから......フローラさん、このプリンまた食べたいですか?」

「そうね、食べてみたいわ。こんなに美味しいんだから、女性なら一度は食べたいと思うわね」


 そうだよな、やっぱり食べたいよな。なら、コレを元に金を稼ぐか? 異世界ファンタジー定番のプリンチートが出来るか?


「なら、フローラさん。物は相談なんですが、ギルドの食事処を貸してもらえませんか? 時間は朝から夕方まで、夕方からは冒険者が利用しますから私は邪魔になってしまうでしょうし」

「何を考えついたの? 詳しく話してくれるなら相談に乗るわ。報酬はプリンよね?」





 ハハ、マジでプリンで釣れたよ。大丈夫かフロア長....

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