第3話 変わらないという幸せ
あの日から立花に気を遣って部室で二人きりにならないように場所を変えたり時間を変えたりしたが、何故か毎回立花と鉢合わせしてしまう。立花は立花で気を遣って部室以外を転々としてるみたいで、その行く先が俺たちと被ってしまっている。その都度、立花は大きな声で謝って帰って行くが、何回も続くと立花にも迷惑が掛かるだろうし次は絶対に会わないような場所にしよう。って思ったのは立花も同じらしく、屋上で再び鉢合わせしてしまった。
「先生たちにお願いがあります」
いつもとは違って改まった様子でそう言った。そろそろ立花も我慢の限界を迎える頃だとは思ってたから、覚悟して聞くようにした。
「どうした改まって」
そこからはあまりのマシンガンぶりに話の内容をほとんど聞いていなかった。普段とは違って淡々と静かに注意し続ける立花に驚いて話を聞いていなかった。それも凄い勢いで今までの分の怒りや愚痴が飛んで来たから、俺たちは何も考えずに立花が話し終わるまで待った。
まぁ、要約するには気を遣わずにイチャイチャしてくれれば良いみたいなことだった気がする。多分。ここで外してしまうと再び怒られそうだから慎重に聞き返した。
「気にしなくて良いって事か?」
「そうです」
話を聞いていなかったことに気付かれるんじゃないかとヒヤヒヤしたけど、そう言うことだって立花が大きく頷いたから多分そう言うことなんだと思う。知らんけど。
「そうか……分かった。次からは気にしないっ!」
立花はお辞儀してから部室へと戻って行った。今の状況を打破できたことに胸を撫で下ろしていると、ゆーちゃんが服をつまんで引っ張ってきた。いつもはそんなことしないのに、これは期待して良いのか? もう気にせずイチャイチャして良いってお許しが出たから気にしないってことなのか?
「ゆーちゃん?」
「怒られた……生徒に怒られちゃった」
めちゃくちゃ泣いてる。自分のクラスの生徒に怒られたってことがゆーちゃんにとっては堪らなく辛かったみたいで、泣きながらごめんなさいを連発してた。俺に謝られてもどうしようもないし、まさか今になってゆーちゃんの泣き顔を見ることになるなんて想像もしてなかったからどう反応するのが正解なんだろうか。
「あ~うん。まぁそこまで落ち込むことは無いんじゃないかな」
「だって……だって……」
人一倍優しかったり真っ直ぐだったりするから、怒られるとすぐに泣いちゃう癖は今でも残ってるんだ。そんなゆーちゃんを見てると昔に戻った感じがして懐かしい。
「怒られると泣いちゃう癖は今でも残ってるんだね」
あの頃に戻りたいとは思わないけど、頭を撫でるとすぐに泣き止むのも、恥ずかしがりながらも嬉しそうにするのも。ここで流れてる時間が昔に戻ったみたいに感じる。ゆーちゃんが怒られてるのを庇ったり、泣き止まないゆーちゃんの頭を撫で続けたり。今でも同じようにしてあげると喜んでくれるのは俺にとっても嬉しいことだ。
いつまでも変わらずに居て欲しいな。ずっとずっと一緒に幸せでいるために。意気地なしな俺のために。
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