第2話 約束の言葉は永遠で

「ねぇ、海くんはあの日の約束ってまだ覚えててくれてるの?」


「約束……花火大会の時の?」


「うん」


 夕日が差し込む放課後の時間。部室に生徒が来る前の僅かな二人きりの時間。何も気にせずゆーちゃんと話が出来るこの時間の為に仕事をしていると言っても過言ではない。いつか、この少しの時間だけじゃなくてずっと一緒に暮らせたら良いのにな。


「それがどうかしたの?」


 俺たちが中学生の頃の話だ。ゆーちゃんは人の為に必死になれる優しい子だけど、自分の事となると不器用になる。もっと自分を大切にして欲しいって何回もお願いしてるのに、それでも他の人を優先してしまう。

 花火大会の日も神社の鳥居の下で約束してたのに全然来なくて、一時間ほど連絡が付かなかったから心配になって神社の中を探し回ったんだ。ゆーちゃんは約束を破るはずが無いんだって、何かどうしようもないことになってるのかも知れないって。

 神社の中は人混みが凄くて探すのに時間が掛かったけど、結局見つかりしなかった。他に探してない場所と言えば神社の隣にある深い森しかない。あそこは危ないから普段は誰も近づかないんだけど、もしかしたらって考えたら居ても立っても居られなかった。


「ゆーちゃん! どこに居るんだっ!」


 神社からかなり離れて人の声もほとんどしないほど奥まで来た。これ以上奥になると、一回戻って大人の手を借りないといけない。でも、今もどこかで不安に押し潰されそうになってるんじゃないかって思うと、俺が一番に見つけてやるんだって強く思った。

 夏の暑い日で湿度も高い。汗で来ていった甚兵衛はびっしょりと濡れてるし、木の枝とかで擦り傷も増えていく一方だった。


「ゆーちゃんっ!」


「……海くん? 海くんっ!」


 今にも泣きだしそうな震えた声が聞こえて来た。一心不乱に声のする方へと走って行くと、傷だらけになったゆーちゃんが座り込んでいた。俺が大丈夫かって声を掛ける前に抱き着いてきたゆーちゃんはもの凄い大きな声で泣き出してしまった。そんなゆーちゃんを安心させるための約束をした。


「もし、また迷ってしまったら俺が一番に見つけてやるよ。でも、それだとゆーちゃんが傷だらけで痛い思いをしてしまうから、迷わないようにずっと一緒に居てやるよ」


 今思い返せば、あの時の俺の勇気に賛同を送りたくなるレベルだ。今の俺じゃ面と向かってそんなこと言う勇気なんか出ないからな。


「こうして、放課後に会えるのも嬉しいんだけど……いつの日か『おかえりなさい』って言ってあげられる日が来ると良いなって。海くんは私が迷わないように一緒に居てくれるって約束してくれたから」


 こんなに良い雰囲気なのに心臓の音が煩すぎて場の空気をぶち壊しそうになるくらいだった。いや、早とちりは良くない。ゆーちゃんは昔から勘違いするようなことばっかり言うから、今日は俺が勘違いさせてやる番だ。


「俺が告白するなら、満天の夜空と満開の桜の下が良いな。今度星空見に行かねえか?」


「ほぇ?」


 いつもなら、星空とか桜って単語に反応して食いつくのに想像してたのと違う反応が返って来て、俺自身どうすれば良いのか分からなくなってしまった。

 なんかゆーちゃんの顔真っ赤だし、勘違いさせるつもりが本気にさせてしまったのかも知れない。


「私は――」


 部室の外から物音が聞こえて反射的に振り返ると立花の姿が見えた。ていうかバッチリ目が合った。ここで捕まえて口止めしないと夏海にも言われるかも知れない。そうなると冷やかされるのは俺だ。全力で止めないと、教師の権力をフルに使ってでも。

 何とか捕まえて口止めをしようとしてた所に夏海が戻ってきて、教師の力でねじ伏せようとした時に教育委員会(上の人たち)の名前を出されたら土下座をするしかないじゃないか。立花には散々ポエムだって馬鹿にされるし、夏海には教師人生を脅かされるしで。今日は踏んだり蹴ったりだ。

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