流行り病
窓の外を見ると、今日も流行り病が繁栄しているというのが分かる。
だから私はこの病気の繁栄を止めるためにあることを行おうとする。
最初に言っておくが、これはただのイタズラでも何でもない。この病気を止めるための貴重な第一歩なのだと確信している。そのための実験なのである。
そう私は心の中の自分に教え込み、暗い部屋の中に唯一置いてあるパソコンの前に座った。
活動一日目
まず私はこのような活動に賛同してくれる者をSNSで募った。
幸い同じような考えに賛同してくれる人が多く、たくさんの人手が集まってくれた。
そのなかにはそういう「病」のことに詳しい人や、そっち(裏)の方に通じている人も少し居たため、この活動はスムーズに実行に移せそうだと思った。
とりあえず、今回は自分の行いたいと思っている事を伝えた。
そのための計画や実行は、また今度ということで今日の活動は終わった。
まだ計画も決まっていないが、実行の日が楽しみだ。
活動二日目
今日は賛同してくれたメンバーで計画のアイデアを練った。
だが、そう簡単に計画は決まらない。ひとつのアイデアが出ても、そのアイデアに対する物、金、などなど様々なものが必要となって来てしまい、結局ボツになってしまうということがいくつもあった。
一番私が良いと思ったアイデアは「先ずその『病』の根源を潰す」というアイデアだった。
……のだが、まずその根源が何処なのかという所で同志たちに指摘されてしまった。
だが逆に言うと、この計画は根源さえ分かれば簡単に事を進めることができる。
どうにかして根源を見つけることができないものか。
こうして二日目の活動は終わった。
活動五日目
いまだに計画が決まらない。
根源さえ見つからない。
様々な案が出ても次々と論破されてしまい、計画が進まない。
同志の中にいる一人の男が、やけにこの計画に口出しをして来て、話を進めることができなくなっている。
私は争いは好まない主義だから、なんとかして抑えたいものだ。
あと、私はやはりこのような日記を書くのは得意でない。
三日に一回ほどのペースで書いていくようにしよう。
活動十日目
この日記を書いていることをすっかり忘れていた。
とりあえず、前回から今までに決まったことは
「無し」だ
何も進んでいない。
だが、唯一進んだものが有るとしたら
あの男の正体だ
今回までの間、さすがに気になった私は同志の中にいたハッカーを少し雇って調べさせてみた。
あの男もどうやら「病」に侵されている人間だったらしい。
その男のSNSの投稿で分かった。
どうやら彼とは一回、しっかりと話をするべきなのだろう。
活動十二日目
何も進まなかった。
今日は彼にメールを打ってみたが何か返信があると嬉しいのだが……。
活動十七日目
簡潔に書こう
大変なことになった
根源を潰すことはできないが、その病の感染経路を潰すことはできるということが分かり、その計画で作戦を進めようとしたところ、
彼からの返信が来た
彼はやはり「病」に侵されている人で正しかったらしい。
彼からの返信は
「この病に侵されることで人生が楽しくなった人は多い。それを、何故わざわざ止めようとするのか?貴方にそのような事を行う権利でもあるのか?」
という内容だった
これだけならば私は引き下がらず計画を進めようと考えていた、
だが、彼の最後の言葉は私が最も恐れていたことだった。
「これ以上計画を続けようとするなら、私はこの計画の内容をSNSを通じて全世界に伝える」
この計画の内容をバラされたら、確実にこの作戦は失敗する。
いったい私はどうすれば良いのか……?
活動十八日目
私は今日、この件を同志たちに伝えた。
やはり同志たちもどうするか悩み始めた。
だが、最終的に「やれるだけやってみよう」ということで収まった。
この作戦は失敗に終わるかもしれない。誰もがそう思いながら、今日の実行のための会議を終わらせた。
計画は「隔離」だ
その根源はどこだか分からなくても、感染経路が分かることから、その感染経路と思われる箇所一帯を隔離することに決めた。
実行は明後日、活動二十日目というキリの良い日だ
それまでに各自準備をして、実行までの気持ちの整え、当日に備えよう。
活動二十日目
すべて終わった。
朝、実行前に朝食を食べていたときだ。テレビを付け、ニュースを見ていると私たちの計画の内容が全て放送されていたのである。
パソコンを開いてみると、私たちが会議に使っていた掲示板が閉鎖されており、一切同志たちと連絡がつかなくなっていた。
また、ニュースではこの計画を「集団テロの一種」、「病を滅ぼそうとする危険な人物たち」とまったく真実と食い違った放送をしており、警察はこの計画を練っていた張本人、つまり私を逮捕する方針で進めているらしい。
私は急いでパソコンを持ってバイクで逃げた。
外に出ると街行く人の話題は私の計画で持ち切りだった。
ヘルメットをしていたから街の人にはばれていなかったが、もしフルフェイスヘルメットで無かったら。街の人は全員私に襲いかかってくるような、殺伐激越な内容を話していた。
なんとか今日は森の中にあった小屋で無事に夜を迎えることができた。
明日から私はどうすれば良いのか
果たして明日の朝日を迎えることはできるのだろうか
活動???日目
諸君ただいま。
なんとか家に帰ってきた。
家のなかは少し荒らされていたが片付けられる程度のものだった。
あの日から何日経っただろう。
あの日を境に日本は変わってしまった。
街中テロリストだらけだ
どこから仕入れたのか知らないがライフルやら、拳銃を持っている者もいるし、今や建物は穴だらけだ。
原因はもちろんひとつだ
テレビで私たちの計画を放送して、「集団テロ」と言ったからだ。
私が最後に日記を書いた日の翌朝は大変なものだった。
街中が集団暴徒化していたのだ。
かくいう私もその日は爆撃音で目を覚ました。
いきなり森の下の方から聞こえたのである。
私は気になって身を隠しながら見てみると、若い男女十人程が武器を持って集まっていたのが見えたのである。
まさか、私の行動がこんなことになるとは。まさか、「病」を促進する手助けをしてしまうことになってしまうとは。
こんなことが起きるなら私は絶対このような計画を考えなかった。
また、銃撃音が聞こえてきた。おそらく近くにもテロリストがやって来たのだろう。
とりあえず私は家の中の荷物を持って、また逃げる事にする。
もう、この日記も最後の物になるだろう。
今思うと、あの朝見たニュース番組も馬鹿な事を言ったものだ、
「今の流行はテロ!?」などと
日本がここまで落ちぶれた事にも驚きだが、
いやはや、流行に乗っかろうとする人間は恐ろしいものだ。
短編集 福舞 新 @ja_fukufuku
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