第2話 ニングヘイムの穴
「カトリ―!」
「分かってるわよ、ダン!」
その刹那、二人は穴の方向に向かって駆け出した。二人の目に飛び込んできたのは空にぽっかりと開いた穴、そしてそこから落下してくる人物らしき影だった。
距離にして100メートル、二人の魔力と身体能力とであれば、ギリギリ間に合う。ダンが先行し、影の着地点までの障害となる岩や木を魔力で薙ぎ払う。
そうして開けた道をカトリーヌが後ろから一気に加速しながら前方に魔法陣を展開する。あわや地面に激突する直前、カトリーヌの魔法陣がクッションとなり、影を受け止めた。
「間一髪ね…」
大きく息を吐きながらカトリーヌは自分の展開した魔法陣に駆け寄り、状況を確認した。地面の上、数センチのところに浮かぶ淡く輝く赤い魔法陣、その中心には静かに目を閉じた少女が横たわっていた。
「大丈夫か!?」
直後に、カトリ―ヌの後ろからダンの声が飛んできた。
「大丈夫!間に合った!」
カトリーヌは背を向けたまま返事を返す。そして魔力を少しづつ閉じながら、ゆっくりと少女を地面に下ろした。数秒掛けて丁寧に魔力を扱う間に、ダンもカトリーヌの傍に並んだ。
「空間転移系の魔法か?」
「状況だけ見ればそのようだけど、当人に意識が無いようだから、誰かに飛ばされたと考えるのが自然ね」
二人は目線を上げ、先ほど空に開いた穴を観察しようとした。しかし、すぐにその穴は閉じてしまい、ヒントを掴むことはできなかった。
「一体何だったんだ…」
「何はともあれ、まずはこの子をどうにかしないとね」
カトリーヌはそう言いながら、足元の少女に再び視線を落とした。見たところ、外傷は無く、気を失っているが呼吸も整っているようだ。品やかで黒々とした髪も、毛束がはっきりしたまつ毛も、カトリーヌには無いモノだった。
見知らぬ少女に少しだけ嫉妬しながらも、まずはこの来訪者の存在について、誰に協力を求めるべきかを考えていた。
「面倒には巻き込まれたくねーんだけどな」
考えていることは同じらしく、ダンが口を開いた。
「そりゃあ、私だってそうよ。でもこうして助けちゃったんだから、どうにかしないと。」
「俺だって、見殺しにはしないけどさ。どうする?」
「そうね。まずはソフィアたちに話をしてみましょう」
カトリーヌはそう言いながら、左手をスッと胸の前に掲げた。指先を器用に動かし、小さな魔法陣を作り出す。その中央に指で文章を書いていく。
書き終わると、カトリーヌはその魔法陣の形を矢のように変え、彼方へと放った。
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