第46話 赤坂家
「だいたい、妹なら舞が一番か、かわ、かわわ……」
「なんでそこで詰まるんですか。不安になるんですけど」
普段ならさらりと舞を褒める赤坂が今回に限って迷いがある。迷うという事はやはり依頼人が可愛かったのかもしれない。
白石が言った、『舞が待っているのなら無茶をしない』という説はまったく正しく無かったのだろう。
「依頼人に対して普通の感情しかないのなら、どうして無理してすぐに解決しようとしたんですか?」
「それは……自分の中の、葛藤というか……」
「かっとう?」
「なんというのか、舞を助けた時のように、助けなくてはならない気がしたから……」
「……私の時みたいにって、そんなの無理に決まっているじゃないですか」
舞の依頼は『行方不明の兄を見つける事』だった。
そしてその事件の結末は、恋人である千鶴が兄を軟禁していたという事だ。
赤坂はそれらの情報を掴んでから、必ず安全を確保してから敵陣へ乗り込んだ。
それと今回のストーカー事件はまるで違う。
まず今回はストーカーから依頼人への悪意がある。その悪意は脅迫をはじめとした危険なものだ。素人が解決できるものではない。
「私の時は敵が千鶴さんみたいな華奢な女の人で、まぁスタンガン持ってましたけど人に積極的に危害を加えはしなかったはずです。ストーカーの方がずっと危険なんですよ」
スタンガンなら一時痛みで悶えるかもしれないが、ナイフのように命を取られる危険は少ない。
そして犯人も女子高生と男という違いもある。同じように安全を確保する事は難しい。
「私の時に頑張ったからって別の依頼人に同じくらいに頑張る必要はないんです。ケースが違うんですから。誰もそんな事で先輩を不公平だとか軽蔑したりしませんよ」
「……そういう事情で頑張った訳ではないのだが」
「じゃあ何だって言うんです?」
素直に聞き返す舞に赤坂は言葉を失う。
本当の事情は舞にも誰にも言えそうにない事だ。
「……いや、やっぱり平等に頑張りたかったんだ。そのため窮地に陥ったのだから、反省せねばならない」
自己完結するかのように、赤坂はそう結論付けた。
嘘や間違いではない。彼は舞が特別でないと思いたくて、依頼人に平等に接しようと張り切りすぎただけだった。
■■■
とある高級マンションの駐車場に付き、二人は車を降りる。舞は赤坂のカバンを抱えたまま、辺りをせわしなく見回した。
豪邸には緑野邸で慣れたが、赤坂までが豪華なマンションに住んでいるとは思わなかった。 マンション外観からして高層で広く、近代的な作りだ。
部屋の中に入らなくても、中の豪華さはわかった。そこに赤坂は母と二人だけで住んでいるらしい。
「すごいマンションですね……」
「あぁ、母が買ったんだ」
舞はその答えに驚く。
赤坂の母といえば簡単に言えば緑野父の元愛人で、愛人といえば住居を用意してもらう事が多いと舞はドラマなどで学んだ。
しかし赤坂母は違うらしい。
「うちの母は仕事人間なんだ。子供は欲しいが夫はいらないという考えの持ち主だから、俺を産む事にしたけど結婚はしたくないという感じだな」
彼らは世間とは大きくずれた家族関係を築いている。舞も深く追及はしないでおく事にした。
しかしそれからすぐ赤坂は足を止めるた。
「舞、ここまででいい。今日はありがとう」
「部屋まで送りますよ?」
「いや、あまり遅くなるのも悪いし、うちは母が留守がちだから、中に入れる訳にはいかない」
「普段妹とか言ってるんだからいいじゃないですか」
とくに何も意識していないような舞の言葉に赤坂は動揺する。
現在意識しすぎる彼は反論したいが、今まで自分で妹と言ってきたため何も言えない。
「お母さんが留守なら尚更一人にできませんよ。せめてあまり歩き回らなくていいように必要な物を用意したりならできますから」
「それは助かるが、でもやっぱり……!」
「何をぐだぐだ言っているのよ、あんたは」
突然背後から女性の声がして、赤坂は前のめりに倒れた。背後にはコートとパンツスーツの女性がいて、ヒールの片足を上げている。
彼女が背後から赤坂の無事な方のふくらはぎを蹴ったのだろう。
女性は背が高くすらりとした美人で、こんな時だと言うのに舞はみとれた。
女性でありながら凛々しさもある美貌は誰かに似ている。
「うちに女の子を連れ込もうだなんて、いい度胸をしているじゃない。昴」
「母さん。誤解だ」
無事な方の足を蹴られて転んだままの赤坂が言った。
『母さん』の言葉に舞は驚く。目の前の美しい女性はとても高校生の子持ちには見えない。
「今日はまだ仕事だったんじゃ……」
「雪子が来るから早めに切り上げたのよ。だから残念だったわね」
「いや、ちょうどいい。舞、この人がうちの母だ」
蹴られたふくらはぎをさすりながら赤坂は紹介した。
「それで母さん、こっちが妹尾舞さん。俺が足を怪我をしたから、荷物持ちに送ってくれたんだ」
「あら、怪我なんてしてたの?」
「あぁ、母さんが蹴った反対の足をね」
両足にダメージを受け、赤坂はしばらくしゃがみこんだままだった。
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