第40話 恋愛感情
「さらに言えばそう誤魔化し続けたせいで、静香は俺に恋愛感情を抱いてしまってな」
「えっ」
「告白されて、俺や周囲はこれはまずいと兄妹だと明かして、そしてさらに静香を悩ませて、静香は悩んだ挙げ句俺を殺して自分も死ぬという選択肢を選んだらしい」
ぽかんと開けたまま動く事のない舞の唇は乾いていた。
何と答えるべきかはわからない。しかし七姉妹会が何故あれほどまでに口をつぐむかは理解できた。
それは人に聞かせる訳にはいかない話だ。今こうして赤坂が舞に告げるのだって、勇気のいる行動だろう。
「人を刺すまでに悩んで、実際に俺が死にかけるところを見たせいだろうな。静香はおかしくなって、記憶をなくしたよ。だからちょうどいいから何もなかった事にして海外にいる親戚に預けた」
「……静香さんは、本当に何も覚えていないんですか?」
「生活に必要な知識は覚えているさ。しかし実の兄である勇の事まで一部忘れているくらいだ。あいつが今まで通りに接したら、静香は悪い思い出までもを思い出す。だから勇すら静香に簡単に会えなくなった」
「だから緑野先輩は赤坂先輩のことを……」
緑野にとっては大事な妹が異母兄との関係に悩み記憶まで失ったという事になる。そしてこれからも兄妹としての関係までも失ってしまった。
だから緑野は赤坂に敵意を抱いていたのだろう。
「でも、仕方のない事だって緑野先輩もわかっているんじゃないでしょうか。赤坂先輩だけが悪い訳じゃ……」
「あぁ、あいつだって分かっている。しかし割りきれない事なのだろう。俺を憎むしかないんだ」
そう答えた赤坂の表情は穏やかで、彼は今のその結果を受け入れている事は明らかだった。
赤坂だって異母妹に刺されそれを忘れられ、もう会う事ができなくなった。被害者であるはずだ。
緑野のように、なにかに怒りをぶつけてもおかしくはない。しかしそれをせず、七姉妹会として活動している。
「……先輩は、強いですね」
「まぁ、俺も勇も仲間がいる。それに救われているのもあるな。それに俺達が本当に不仲にならないよう七姉妹会は作られた訳だし」
「あ、そういえば理事の人が作ったんですっけ」
二人の事情を知る人達がなんとかしようと考えている。それを聞けば舞も安心した。昔のように仲良くする事はできないが、これ以上にこじれる事はない。
「こう言うのは誤解されそうですけど、良かったですね。皆がいてくれて。皆、私にはこの事を黙ってました。それでどっちの味方をしないようにしてました」
「そうなのか?」
「はい。皆どっちが悪いとかは考えず、別々であっても二人と仲良くしようとしています。七姉妹会が完全に壊れてしまわないように」
普通、赤坂と緑野にこんな事があればどちらかの味方になろうとしてしまう。しかし七姉妹会のメンバーは、中立を貫き、彼らの間に起こった出来事を語る事はなかった。
そして関係修復のためにクリスマス会などを計画していた。そういった事のできる仲間は貴重なのではないかと舞は思う。
「それなら安心だ。……この不仲はいつか舞を巻き込むかもしれない。誰も言わないだろうから俺が言っておきたかったんだ」
「私を巻き込む、ですか?」
「舞と勇の仲がいいのならきっと板挟みになってしまうだろう。それが鬱陶しいのなら、俺から離れて構わないから」
赤坂の一番言いたい事はそこにあった。
舞が巻き添えを食らってはいけないし、さすがにそろそろ愛想をつかされてもおかしくはない。
だから赤坂から言えば舞は遠慮なく離れられるだろう。
「鬱陶しいだなんて今さらですよ」
「うっ」
はっきりした舞の答えに、覚悟していた赤坂もダメージを受けた。
「デートの邪魔はするし、私が何やっても妹っぽいって言うし。勉強教えて貰ったりお菓子くれたりしなきゃ、とっくに七姉妹会から離れてます」
「そ、そうだったのか……俺はてっきりツンデレで憎まれ口を叩くのかと」
「あれはツンだけです。……まぁ、皆おもしろい人だと思うし、いい人だって分かってるからこれからも関わりたいと思うけど」
「……今のがデレか?」
「デ、デレなんかじゃないんですからね!」
素直な気持ちがぽろりと出れば、赤坂が笑顔になるのを見て舞は恥ずかしくなる。
その笑みが落ち着いた頃、思い出したかのように赤坂は机に向かった。
「そうそう、話したかったのもあるが、これを渡したかったんだ」
そして机にあった深い赤色の包みを手にし、舞に渡す。金のリボンで綺麗にラッピングされたそれは、どこからどう見てもクリスマスプレゼントだった。
「まさか赤坂先輩もプレゼントを?」
「あぁ、抜け駆けするつもりで用意していた」
「……皆考える事は一緒なんですね。本当に私、何も持ってこなかった事が申し訳ないです」
これで緑野と青島以外から個人的なプレゼントを貰った事になってしまう。
それ以外の皆が抜け駆けをしようとしていたのなら、仲が良いのか悪いのかわからない集団だ。
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