第39話 追放
赤坂から明かされた事実を舞は冗談だと思った。なぜ緑野の家に赤坂の部屋があるのか、意味がわからない。
しかしここが赤坂の部屋だとしたら、彼が迷わず緑野家内を歩ける事は納得がいく。
「前に言っただろう。俺には弟がいると」
「あ……」
「緑野勇一郎は俺の弟だ。母親の違う、弟なんだ」
話は繋がった。
何故赤坂と緑野は不仲か、どうして筑紫達は彼らの事を詳しく語ろうとしないのか。
一度繋がってしまえば様々な事を思いだし、舞はそれについてを考えこむ。
「……弟には嫌われているって、言ってましたよね?」
「あぁ。昔は仲は良かったんだが、色々あってな」
「その事は皆……七姉妹会も、この家の人も、皆知っている事なんですよね?」
「今まで教えなくて悪かったと思っている。その、言わなかったのは別に舞を仲間外れにしようという訳ではなくてだな」
「わかってます。簡単に言える事じゃないって。私は大丈夫ですから」
舞は別に隠し事をされて怒っているわけではない。驚いて、そして何と言えばいいかわからなくて困惑しているのだった。
「え、えっと……先輩は、普段ここに住んではいないんですよね?」
「あぁ、母のいるマンションで二人暮らしている。こっちにもよく顔を出すから、泊まるための部屋は用意されているし、使用人達はここの坊っちゃんとして扱ってくれるのだがな」
情報に頭が追い付かない。そんな舞を冷静な赤坂は観察し、もっとわかりやすく説明をする。
「わかりやすく言えば、俺は愛人の子供で、緑野……勇より先に生まれたため兄になったんだ」
ドラマのような内容が目の前にあって、舞は現実として受け入れがたかった。
「どうしてそんな事に?」
「父親の浮気が原因なのだが、うちの父親は俺と勇、どちらも大切にしている。俺の母と勇の母がめちゃくちゃ仲がいいからな」
「えっ、お母さん同士で仲悪くないんですか?」
ただドラマと違うのはそれほどドロドロとしていない事だ。
普通、赤坂のような環境では本妻と愛人が激しく争うものと舞は思い込んでいた。
「あぁ、母親二人は仲良しで協力して俺たちを育てたほどだ。父親がその仲の良さに嫉妬するくらいだ。勇の母親も俺によくしてくれるし、母親が二人いるような感じだ」
「……お金持ちの人って意外と皆そうなんですか?」
「うちは珍しい方だと思うな」
庶民の思う金持ち像が特別おかしい訳ではなく、緑野・赤坂家がおかしいだけらしい。
「昔は俺と勇も仲が良かったんだ。けど、色々あってこんなかんじになってしまった」
その色々と言うのがこれから赤坂が言おうとしている話なのだろう。真剣に舞は彼の話の続きを待った。
「勇には妹がいて、それは俺にとっても血が半分繋がったと妹という事になる。こじれたのはその妹が原因だ」
妹。舞がパーティー中ずっと謎に思っていた事が、あっさりと明かされた。
緑野の言う妹とは、緑野とは完全に血の繋がった妹で、赤坂の異母妹だった。しかし彼はそれを一切明かさず『赤坂にだけ妹がいる』と聞こえるように言っていたからややこしい。
本当は緑野にとっての妹で、母親の違う赤坂にとっては妹と言えるかどうかも怪しいのだった。
「……でも赤坂先輩は、緑野先輩を弟と言いましたけど、その下に妹がいるなんて事は言わなかったですよね?」
弟がいるとは聞いた。それも緑野と異母弟であるのに、赤坂はきちんと弟として認めていたはずだ。しかし異母妹を認めていないというのはおかしい。
「その妹は静香と言うのだが……今はこの家にいない」
「えっ」
「表向きは留学という事でこの家を出ている。けど、実際は追放されたんだ」
「追放……」
舞はその言葉に不穏なものを感じとった。家族が縁を切るような、そんな言葉だ。
「一体、何があったんですか?」
「静香が中一、俺が中三の頃。静香が俺を刺したんだ」
今日一番の衝撃が舞を襲った。
しかし聞き間違えや誤解か何ではないかと更に言葉を待つ。
「包丁で刺されたんだ。浅かったからこうして生きていられるが、脱げば今も傷が残っている。舞が望むなら見せられない事もないが……」
そう言って赤坂は下腹部を示す。それを見て舞はぶんぶんと首を振った。
そんな深い傷、簡単に見れるものではない。
「まだ非力な女の子が切りつけたようなものだから、傷は本当に浅いんだ。だからそう心配はしないで欲しい」
「なんで、静香さん、そんな、先輩が死んでしまうかもしれない事を……?」
「殺すつもりだったのだろうな」
「半分血の繋がったお兄さんなのに」
「静香は俺を兄だとは思っていなかったんだ。無理もない。うちの事情はややこしいから、俺の事は遠い親戚という事で子供には通していた」
事件があった当時、静香は中学一年生だった。まだ幼く、自分の父親が愛人を作り子供がいるという話は理解できなかったのかもしれない。
そのため赤坂を『遠い親戚のお兄さん』として通したため、静香は『半分血の繋がった兄』と意識せず親しくしていたらしい。
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