第41話 正直な話

「皆、舞とクリスマスを共に過ごせた事に感謝しているだけだ。プレゼントを与える事すら夢なのだから」

「……じゃあありがたく頂きます」

「ちなみに中身はイヤマフだ」

「わぁ、それはあったかそうでいいですね」

「舞は徒歩か自転車通学だろう?ならば耳が冷たいのではないかと思ってな」


これから帰るという時に包装紙が散らかってはいけないから包みは開けず、舞は大切そうに抱えた。

登下校で耳が痛い程に冷えた経験のある舞にはイヤマフがありがたかった。


「この間、寒くなるから帰ると言っただろう。菓子もないからと」

「あ……」


舞の一言を根に持って覚えていた赤坂は、そのためイヤマフというプレゼントを選択したらしい。


「これをやるから居残れとまでは言わない。ただ、もう少しお茶にぐらいは付き合って欲しいと思う。遅くなるなら帰り道を送るし」


さすがにそう言われてそこまでされれば舞の中に罪悪感が生まれた。


「……あーあ、なんで明日から冬休みなんでしょうね」


お茶に付き合うとははっきりと言わない。しかし明日から冬休みである事を残念がるというだけで、赤坂は舞の気持ちを知り胸を締め付けられた。


「これ、つけて登下校しますね」

「あ、ああ」

「……先輩が私を妹扱いするのって、正直キモいとか思ってました」


正直すぎる舞の言葉にまた赤坂は傷つく。


「でも、先輩はきっと静香さんを可愛がれない分、私を可愛がろうとしているんですよね」


話をまとめるとそういう事だと舞は判断した。

赤坂は平気そうにしていた。しかし平気なはずはない。赤坂も緑野と同様に妹を失った。


そして緑野も、赤坂が舞を静香の代わりにしようとしている事を告げた。

しかし記憶喪失で関係修復不可能な妹の代わりにされている事は、舞はそう嫌ではなかった。


「私は別にそれが嫌って訳じゃないです。結局は大事にされているんだから」


妹の代わりに大事にされるという事に文句はない。助けてもらった事や勉強を教えてもらった事は単純に舞には嬉しかったのだから


「どうしても行き場のない気持ちとか、どっかで発散する事が大事だと思うんです。妹を可愛いがりたいという気持ちぐらいなら、私は少しぐらいなら付き合ってあげますよ」


緑野は行き場のない怒りを赤坂にぶつけている。

赤坂にも表に出ないだけで行き場のない感情は有り、それを発散した方がいいと舞は思う。


「さすがに私のお兄ちゃんは本当のお兄ちゃんだけだし、構われすぎるのはうざいけど」


舞にそう言われた時、思っていたより赤坂の心は傷まなかった。

『うざい』という言葉に傷つかなかった訳ではない。少し行動を改めようというくらいには傷つく。

しかしそれ以上に舞の実兄には敵わないと無意識に思っていたからだと気付く。


「舞は、本当のお兄さんが大事なのだな」

「大事っていうか……普通です。生まれた時からいる、当たり前の存在なんですから」


赤坂にとっては静香もそれに近い存在であったはずだ。

彼女が生まれた時は物心がはっきりしない頃だから、気付いたらいた。中学になるまで妹と知らされなかったが、薄々気付いてはいたが親戚として可愛がった。

中学になり真実を知らされて、何も言えずとも兄らしく、静香が誇れる人物であるよう振る舞おうと彼は考えていた。しかしそれを静香は誤解した。


「まぁ、そのうちに何年も付き合いを経れば、赤坂先輩をお兄ちゃんと認められるかもしれませんし」


舞にしてはめずらしい、妹としてのデレ。しかしそれに思っていたより喜べなかった時、赤坂は自分の気持ちを自覚した。


今舞に向ける感情と昔静香に向けた感情がまったく違うという事に。


「先輩?」


舞は何の反応もしない赤坂を不思議がる。

赤坂が先程を思い出せば、舞から兄扱いされない事に特に不満に思わなかった。実兄に負けるのは仕方ないと考えていたのかと思ったが、実は違う。

兄扱いをされたい訳ではなかったのだ。

しかし舞を大切に思い、彼女に彼氏ができたら困るという気持ちもある。しかしそれは想い人に対するものと言えなくもない。


なにより静香と舞はまったく似ていない。顔も性格もまるで違って、舞が静香の代わりになるはずがない。


「先輩ってば、どうしたんですか?」

「舞っ!」


自分の気持ちに気付き、赤坂は舞の両肩を力強く掴む。それに舞は驚き丸くなった目で赤坂を見つめた。

赤坂には今すぐ訂正しなければという気持ちがあった。しかし彼女を見て何と言えばいいかわからなくなる。


そんな時に赤坂の携帯電話が鳴った。


「先輩、電話。多分他の先輩方じゃないでしょうか?」


そう言えば片付けをさぼってしまっている。解散時間だって過ぎていて、さすがに連絡しにきたかもしれない。


「どうかしましたか?」

「……なんでもない。ただ舞は静香とは違う。それを言いたかったんだ」

「なんだ、私に気を使ったんですか。別にいいのに」


やはり赤坂の考える意味とは微妙に違う意味に取られたらしい。しかし今語るにはまだ整理がつかず、このままでいいと赤坂は舞と共にの七姉妹会達の待つ会場に戻る事にした。


そして初めて妹を迎え七姉妹会を揃えたクリスマスパーティーは終了したのだった。

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