第33話 いろいろ考えて妹好き
どうやら橙堂と筑紫は何度かこちらに来ているし、緑野との仲も良好らしい。
「あ、そういえば聞きたいんですけど、赤坂先輩がさっき言ってた『白石さん』というのは……?」
乾杯の前に赤坂はその名を口にしていて、それも舞はちょうどいいと聞く事にした。これは別に地雷ではなさそうに感じたため気楽に聞けた。筑紫はいつも通り饒舌に語る。
「あぁ、白石さんって言うのはね、七姉妹会の創立者なんだ」
「創立者……という事は、OBなんですか?」
「OBと言えばOBだけど……うちの学校の理事で、緑野の親戚、らしいんだよね」
「理事!?」
そんな人物が七姉妹会に関わっていた事に舞は驚いた。理事が作った会だとしたら赤坂達が自由すぎる振る舞いもわかる。
「もしかして七姉妹会って歴史が古かったりしますか?」
「古くはないよ。作られたのは僕らが入学してすぐだから」
「あ、そうなんですか……けどなんでまた。妹好きが七人集まったからですか?」
「それは……何だったっけな……」
聞かれて筑紫は言いよどむ。そしてあさっての方向を見た。そんな筑紫の代わりに橙堂が教えた。
「緑野のためだ。あいつ、特進科に友達いないから会いやすくするためにだな」
「友達がいないからってこんな会を作るものですか?」
「俺達は全員が別の科に通うんだ。こうでもしなければ接点がないだろ?」
その答えなら舞も納得できた。緑野の友達のいない学校生活を考えれば、思いやって拠点を作り何かの活動をしたいと考えたのだろう。
「……そっか。先輩達、ただの病的な妹好きじゃないんですね」
「なんだその印象は。俺達だって色々考えて妹好きやってんだよ」
橙堂は舞の頭を手のひらでわしわしと撫で回す。
舞はその手を払い乱れた髪を直した。
「もう、やめて下さいよ」
「……ようやくいつもの調子になったな。お前はそうしてくだらない事だけ考えてろ」
橙堂は撮影用ではない豪快な笑みを見せる。やはり強引ではあるが、どこか沈んでいた舞を心配していたらしい。
「あはは、すみません。つい暗くなっちゃって」
「ま、おおかた緑野と赤坂の仲の悪さに気付いて緊張でもしたんだろ」
「……橙堂先輩、よくわかりましたね」
さすがに細かく言い当てられたわけではないが、だいたいあっている。
まず舞は赤坂と緑野の仲の悪さに驚いたのだった。赤坂はぎこちないだけだが、緑野には明らかに敵意がある。から
「俺はそれがわかってて、わざとお前と緑野と赤坂が一緒の車に乗るよう誘導したんだよ」
「そんな、それってひどくないですか?」
「どうせ二人の仲が悪い事はすぐにわかるんだ。だったらパーティー中に気付いて気まずくなるより、パーティー前に分かった方がいいだろ」
橙堂なりの気づかいで最初から仕組まれたことらしい。
パーティーの最中に二人の仲が悪い事に気付く方がパーティーは台無しになる可能性が高い。事前に気付かせようと、わざと橙堂は三人を同じ車に乗るよう指示したのだった。
「二人が仲が悪いとしても、舞ちゃんは気にしなくていいんだよ。ほら、赤坂は『妹であればなんでもいい派』だけど、緑野は『ハイスペック妹派』だから。意見の違いみたいなもんだし」
「あぁ、皆そう言えばそうですね……」
今目の前にいる筑紫と橙堂だって好みの妹の違いから仲が悪い。それと似たようなものだとしたらいちいち気にする事はない。
「俺達は緑野と赤坂、どっちとも仲良くしてるし、どっちの味方もしない。だからグループとして仲良くできるんだ。……まぁ俺だってツンデレ妹をありがたがるような奴とは仲良くないし」
「僕だって妹にツンデレ披露するような奴とは仲良くないよ」
この橙堂と筑紫だって意見の違いから不仲で、しかし周りはそれにさほど口は出さない。
仲が悪いとしても一人だけ。他とは仲がいいので、こうして天敵がいようと皆が会に集まるようだ。
しかし舞の中に生まれた違和感は消えない。赤坂達は趣味の違いから仲が悪いと橙堂は言ったが、それはごまかしであるような気がする。
勿論赤坂達には趣味の違いもあるのだろう。しかしそれ以上に深い溝があるようには感じた。
「緑野先輩が七姉妹会にあまり出席しないのは、もしかして赤坂先輩を避けているからですか?」
「まぁな。単純にあいつが忙しいのもあるけど。でもこうして集まりに誘わないと緑野は拗ねるし、活動に不真面目ってわけじゃない」
「拗ねるんですか……」
緑野の孤独を思えば仕方ない事だが、拗ねる緑野など想像し難い。
けれど緑野は舞が思っていたよりも奥の深い人物だった。苦労知らずの優しいお坊っちゃんに見えるが、それだけではない。
美しい外見に相応しくないような、憎しみや悲しみなど人間くさい感情を持っていると舞は感じた。
そして次に気になるのは緑野が言った、『七姉妹会は本当に女の子を妹扱いするか』という事だ。
「……もうちょっと聞いてもいいですか?」
「うん、なにかな?」
「先輩達、彼女いたり作ったりしないんですか?」
妹についてどう思っているかを聞くにはその質問が手っ取り早いと考え、舞はそう質問した。
現在彼女がいる・彼女が欲しいというのなら彼らは純粋な意味で妹が好きという事になる。
しかし筑紫は瞳を輝かせ跪き、舞の手を取る。
「それって、舞ちゃんが彼女になってくれるって事?」
「えっ」
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