第31話 違和感ある二人
その紙袋の中には今日の交換用のプレゼントが入っている。今日のために舞が予算内で選んだものだ。
赤坂はそれに七と書いた紙を貼った。
「七番」
「七番か」
男達のそんな囁きが聞こえたのは、舞のプレゼントを狙ってのことだろう。
「プレゼントはくじ引き形式にした。どうせ皆舞のプレゼント狙いだ。こう、音楽のようにリレーのように渡して行く形式では皆が不正をしかねない」
「はぁ、そうなんですか……」
ほぼ男子高校生で構成された円で皆が音楽を流しながらプレゼントも回す図を、舞は想像してしょっぱい気持ちになった。今日舞が参加しなかったらどうなっていたか、考えたくはない。
「すみません、お待たせしました」
舞の聞き覚えのある声が美術室に響いた。
振り向くとそこには、穏やかな微笑みを浮かべた緑野が居たのだった。
「緑野先輩!?」
「妹尾さん!?」
互いの姿を見て驚きの声をあげる。
『なぜ最近親しくなった人がこんなところに』という疑問が起こり、『相手が七姉妹会に関係する』と気付く。
「最後の一人って、緑野先輩だったんですか……」
「今皆に気にいられている妹って、妹尾さんなんですね……」
そしてショックを受けた。舞は常識人である緑野が赤坂達の仲間とは信じられなかったし、緑野は七姉妹会が舞に迷惑をかけていないか不安になったのだった。
「なんだ、二人は知り合いだったのか?」
「つい最近知り合ったんです」
赤坂の問いに答えたのは舞だった。
そういえば緑野にいるという『他の科の友達』とは七姉妹会の事なのだろう。よくよく考えれば色々な事に納得がいく。
しかしそれに関して違和感もある。何故か皆、緑野の存在を積極的に話さない。普通ならば友人の話など自然にしてもおかしくないはずなのに。
「時間は押してるんだ。さっさと車、出してもらおうぜ」
様々な驚きで静寂が訪れる美術室だったが、空気を読んだ橙堂の声をきっかけに皆が動き出す。
「舞は先に赤坂と緑野と乗れ。俺たちは荷物運び入れなきゃならないから」
「あ、はい」
橙堂の指示により、舞は赤坂と緑野を視線を送る。それに緑野が気付くと、彼は舞を案内する事を思いだしにこりと笑顔を見せた。
「じゃあ、妹尾さん。行きましょうか」
「はい。今日はよろしくお願いします」
「もっと気楽にしてください。確かに僕は七姉妹会ではありますが、妹尾さんにはこの間のように接して欲しいんです」
友人として接して欲しいというのは混乱する舞にはありがたい事だった。
妹として接して欲しがる男子高校生よりは健全である。
しかし、それは彼の『ハイスペック妹萌え』から考えると舞はなんだか複雑だ。
彼に妹としてみられないという事は自分が凡人と言われているようで、自分が凡人であると理解していても釈然としない。
妙に重苦しい空気の中、三人は車に乗り込んだ。
汚れ一つないような黒塗りの車は、まさに緑野のような王子めいた人物を送迎するために存在するものだと舞は思う。
「お邪魔します」
あまりの車の豪華さに、舞は思わずそんな言葉が出てしまった。
それに緑野はくすりと笑う。
「妹尾さん、もっと気楽にしてください」
「だって、緊張します」
「自転車で行くことにすれば良かったでしょうか。そうそう、この間の自転車はきちんとメンテナンスしてもらいました」
「あ、それは良かった」
「寒いですけど自転車通学も悪くありませんね。妹尾さんのように素敵な人と出会えた訳ですし」
率直すぎる緑野の言葉に舞は頬を赤くした。とくに深い意味はないにもしても悪い気はしない。
緑野は助手席で、舞は後部座席に座っていて距離があるというのに話は弾んだ。
しかしそうなると舞が気になるのは、隣に座る赤坂だった。
彼は慣れた様子で車に乗ったが、先程から一言も発しようとしない。それにいつも余裕そうな笑みを浮かべている彼が、今に限っては無表情で呆然としている。舞が話していても反応が鈍い。
「……赤坂先輩、車酔いでもしたんですか?」
車内は走行中であってもまったく揺れないのだが、舞は尋ねる。
あのよく喋る赤坂が黙っているなんて、と異常に思っているのだ。
「なんでもないさ。具合は悪くないから、そう心配しないでくれ」
「……そうですか? ならいいんですけど」
そして舞は再び緑野との会話をした。たまにちらりと横目で赤坂を確認しながら。
■■■
車にとっては少しの距離を走り、緑野家に到着する。車や緑野から察してはいてもその豪邸ぶりに舞は少しだけ引いた。
庶民の舞にはどれだけすごいのか察する事ができない。とりあえず門が開いてから駐車場までの庭を車で走った時点で、察する事はやめた。別世界すぎる。
「足元に気をつけてください」
舞が車を降りる際に優しく語りかける緑野に、相変わらず無口になった赤坂。そして赤坂は一足先を歩いた。
「あ、先輩?」
「すまない。洗面所に行ってくる」
赤坂はそういって先に建物に入る。舞はそれに違和感を覚えたが、やはり気分が悪かったのだろうかとも考えた。
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