第13話 ロザリオ交換
そのスカート丈はけしてやぼったいという訳ではない。品の良さを追及した長さだった。そして足元は黒のタイツですらりした足を強調している。
髪は長く、茶を入れるためか緩く束ねていてそれだけでも美しい。
顔はとろんとした目元をしていて同性である舞までその色気を感じた。
「あ、あの……」
同性なのに相手が美人のため動揺してしまう事を舞は恥ずかしく思う。しかしなぜかうまく言葉が出ない。
「そんなに固くならないで。今、お茶を入れようとした所なの。まずはこれを一緒に飲まない?」
女子生徒は可憐な笑顔で来客として茶をすすめた。しかし舞は自分の立場を思い出す。事件解決の礼に、赤坂達に妹として茶を出す約束をした。
しかしこうして他の女子生徒が茶を入れているという事は、彼女も七姉妹会に恩がありそれを返すためここにいるのかもしれない。
ちくりと舞の胸が痛んだ。理由ははっきりしない。しかしいますぐ赤坂をぶん殴りたい気持ちになる。
「あぁ舞、来ていたのか。ありがとうな」
そこへ赤坂が現れる。彼はいつも通り美術室に我が物顔で入り、舞の姿を見つけて表情を輝かせた。
しかし舞は怒りを隠すような不自然な笑顔で彼を迎える。
「ちょうどよかった赤坂先輩。一発殴らせて下さい」
「な、殴る!? どうしたんだ、俺には筑紫のように殴られて喜ぶ趣味はないぞ!」
「喜ぶ趣味はないんですか。それは良かった」
「で、でも、舞がどうしても新たな快楽の扉を俺と共に開けてみたいというのなら、一度だけなら……」
「気色の悪い言い回しをしないで下さい。頬を染めないで下さい。気持ち悪い。やっぱりやめます」
「……なんだ、やめるのか」
何故か残念そうに赤坂は呟いた。
それでも舞の怒りは治まらない。
あれだけ舞を好いて構うくせに、こうして清楚な女子まで妹としてここに呼んでいるのだ。妹系なら誰でもいいという態度が気にくわない。
「桃山も来ていたのか」
「えぇ。噂の舞ちゃんに会いたくて。でもこの子が舞ちゃんだったのね。普通にお客様だと思っておもてなししてしまったわ」
赤坂と女子生徒の話題を舞は疑問に思う。
桃山。それは七姉妹会の一員の名であると舞は記憶していた。
「舞、会うのは初めてだろう。七姉妹会の桃山だ」
「初めまして、桃山恵です。家政科の二年生よ」
にっこりと微笑む桃山を見て舞の心は和んだ。のんびりした口調に品のあるお嬢様的な言動にほっとする。
彼女も七姉妹会と言う事は、女性だが妹を愛す人間なのかもしれない。しかし女性と言うだけで舞にはそう嫌悪感は現れなかった。
「あれ、桃山先輩って、ここで食べたクッキーを作った人ですよね?」
「まぁっ、食べてくれたの?嬉しいっ」
「はい。とってもおいしかったです。女性だったんですね。なんとなく男性と思い込んでいたので、この人がお兄ちゃんだったらいいなぁなんて思ったりしてました」
舞が自分の気持ちを素直に語れば、桃山が大きな目でじっと赤坂を見る。しかし赤坂はその目を反らした。
「……舞ちゃん、私がお兄さんだったらいいなって言うのは本当?」
「あ、いえ、変な意味はなくて、当時は桃山先輩の事を男性と思い込んでいたから……」
「誤解はしていないわ。純粋に舞ちゃんが私の妹になりたいと思ってくれたかどうかを聞いているの」
「……妹になりたいっていうか、こんなクッキーが毎日食べられる妹は羨ましいというかんじなんですけど」
舞は続けて素直な気持ちを語る。
彼女は他人の妹になりたいと本気で考えた事はない。ただ桃山の事は『妹になればいつでもクッキーが食べられるのは良い』という話だ。
「そう。だったら私の事は『お姉さま』と呼んでね」
「えっ」
「夢だったの! こんなに可愛い妹ができる事が! さぁロザリオを交換して、姉妹になりましょうか!」
そうは言っても桃山はロザリオを取り出す事はなかった。持っていないからだ。舞は急に目の前の美人がわからなくなった。
「舞。言っておくが桃山は『お姉さん』などではないぞ」
「え?」
「しいて言うならば『お兄さん』だ」
赤坂の言葉に舞は首をかしげてから桃山を見る。女性らしい柔らかい雰囲気に美しい容姿に可憐な振る舞い。どう見ても『お兄さん』はない。
「もう、赤坂ったら。秘密にしてくれないと困るわ」
「秘密にすると舞が困る事になるだろう。だから言ったんだ。大体隠している訳でもないだろう?」
「それはそうだけど……最初から私が女装してるなんて思われたら、舞ちゃんに変態だと思われてしまうじゃない」
「自分が変態という自覚はあるのだな」
先輩二人のふわふわとした会話の中に衝撃的な単語が入っている事に舞は気付く。
『秘密』『女装』『変態』。三つ重なると頭も混乱する。
「……女装って?」
「そう女装。こういう事ね」
桃山は舞の手をとりブラウスとブレザーを着た自らの胸に押し付ける。舞は手に与えられた固い感触に目を大きく見開いた。
「平ら……?」
「そう、平らなの。意外に鍛えられている大胸筋はちょっぴり自慢なの」
「ま、まさか男?」
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