七姉妹会の追跡
第12話 年上男性
初冬の冷たい空気から首筋を守るためには髪を下ろすしかない。舞は最近ツインテールばかりにしていた髪を下ろし、髪ごとマフラーをゆるくまく。
「あれ、舞もう帰んの? 雑誌見ていけばいいのに」
友人の律に呼び止められ、舞は迷った。
放課後、教室に集まってお菓子を食べながら雑談をする事はよくある事だ。しかし舞だけが帰り支度をしている。
「うん、ちょっとね」
今日は七姉妹会に顔を見せるつもりで向かう。とはいえアポ無しなため誰も居なければすぐに帰るつもりだ。七姉妹会は活動日は不明。ただしいつか妹が相談に来るのではと誰か一人はいるようにしているらしい。
「なになに、デート?」
「そんなんじゃないよ」
「そうだよ。舞は今度の日曜、後輩とデートするんだから、今日じゃないよ」
「後輩って、それって中学生と付き合ってんの!? なにそれショタコンじゃん!」
中学からの友人・律がざっくり説明すると高校からの友人・朝香がそんな風に感想を述べる。
高校生から見れば中学生というくくりだけでは子供に思えてしまうが、舞としては否定をしたい。
「中学生って言っても三年生だよ。一個下。あと付き合ってない」
「へぇ、それで最近ツインテールで若作りしてたんだー」
朝香の言葉に舞は無言になる。別に後輩に合わせるための若作りではなかった。先輩のためというか、先輩にうるさく言われて結果だ。
「じゃあちょっとでも雑誌見てけば。デート服悩んでんでしょ?」
「……うん、そうだね。じゃあちょっとだけ」
せっかく返してもらった十万という軍資金だが、未だに舞はデート服について決められずにいたため手付かずだった。十万もあれば服から靴小物まで揃えられる。しかし高校生には大金であるため慎重に考えたい。
机の上に広げた雑誌ではちょうどモテ服デート服などを取り扱っていて舞の興味をひいた。
「しかし年下とはねぇ。あたしはやっぱ年上がいいけどなぁ」
「朝香はいつもそうだよね。まぁ私もどっちかというと年上なんだけど」
「え、二人共年上好きなの?」
どちらかと言えば律も朝香も今まで恋愛話をあまりしない。友人二人が年上好きどころか、どういう男性が良いかなんて舞は初めて聞く話だ。
「精神面で頼りないのがほんと無理だから年上がいいよ」
「そうそう。私はやっぱ普通科の赤坂先輩かなぁ。なんでもできてちょう大人っぽいの」
「……普通科の赤坂先輩ってあの?」
「うん、赤坂昴先輩。他に普通科に赤坂なんて人いないでしょ?」
朝香の趣味に舞は何も言えなくなった。
確かに年上ではある。見た目だけなら大人っぽい美形だ。
しかしその内面は妹大好きな変態だ。
「私は芸能科の橙堂先輩がいいな」
「うわぁ、りっちゃんてばまた難しげな所を」
「見ているだけならいいでしょ。そもそもお仕事で忙しくてあまり学校に来れてないみたいだし」
またしても舞は聞き覚えのある名を聞いた。
「……橙堂先輩って芸能人か何かなの?」
舞の単純な質問に、律と朝香は盛り上がっていた年上異性の会話を中断させた。
「何言ってんの、芸能科の橙堂ユズルだよ? 今人気の役者さんでドラマやCMにいっぱい出てるじゃん」
「朝香ムダムダ。舞はあんま年上に興味ないし」
「あ、そっか。年下ハンターなんだっけ」
別に年下をハンターした覚えはないが、年上に興味のない事は確かだ。なにしろこの七海学園は生徒数が多く、同科・同学年でさえ把握する事は難しい。なのに最近年上男子に対し戸惑うような出来事があった。
「体育科の黄木先輩もいいんだよねぇ。体おっきいのにふんいきヤンチャで大型犬みたい」
「橙堂先輩と黄木先輩と言えばさ、よく清楚そうな美人の先輩と一緒にいるよね。どういう関係なんだろ」
「え、なにそれ初耳。どっちかの彼女かなぁ、だったらショックー」
いつの間にか二人は舞のわからない話をしている。どうやら全員有名な男子で先輩らしい。
先輩と考えただけで舞は悪寒がした。
「……ねぇ、もし赤坂先輩とかそのイケメン達がさ、変な趣味持ってたらどうする?」
「変な趣味って?」
「年下の女の子を気に入っておいかけまわしたり、とか」
「うわ、なにそれロリコンだ。最低」
朝香の嫌悪感たっぷりな呟きに舞は安心した。世の中美形だからと何もかも許せる訳ではないと考えているのは自分だけではなかった。
「まぁ、変態具合も程度にもよるかな。誰にも迷惑かけないぐらいならおもしろいし」
「え、おもしろいの?」
「うん、おもしろい。ただ、その人に関わらない事を前提にした話だけどね」
律の言葉に納得をし、舞は赤坂の本当の姿の事を一生言わないでおこうと決めた。
友人二人の夢を壊したくなかったのだ。
■■■
何故に七姉妹会の活動場所が普通科棟の美術室かと言えば、あまり利用者がおらず日当たりが良く綺麗なためだ。
普通科では選択教科で美術を選ばない限り美術室は利用しない。そしてその授業の内容も鉛筆デッサンがメインのため自然光をとり入れやすく、絵の具で汚れていないため美術室にしては明るく綺麗なのだった。
「失礼します」
多分赤坂がいるのだろう、そんな事を考えながら気楽な気持ちで舞は美術室の扉を開けた。
しかしそこに居たのは女子生徒だった。
「あら、お客様?」
女子生徒が扉を開けた舞に気付き振り返る。彼女はティーポットを手にしていた。茶葉を選んでいたようだ。
その女子生徒は自由な校風のこの学園には珍しく、スカートが膝丈で長かった。
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