第7話 犯人

「じゃあ高木・沢井の二人は舞ちゃんのお兄さんとは関係ないという事?」

「……いや、一緒に行方不明にはなっていないだけで、関連はあるはずだ。なにせ、」


筑紫の質問に赤坂は答えかけて扉を見る。少しすると騒がしい足音と共にその扉が開き、件の二名の男子生徒が現れた。頭が良さそうな男と顔が良い男。彼らが高木と沢井なのだろう。


「今こうして、俺が『石原先輩の居場所を教える』という餌で呼べば、高木と沢井は来る程なのだから。つまり二人は学校をサボり石原先輩を探していたんだ」


高木・沢井は美術室に到着するなり息を切らせている。呼吸を整え話せるようになるまで、しばらくかかるだろう。

しかしそれだけ急いで石原の居場所を知りたいという事だ。二人が今まで学校を無断欠席していたのだって、石原を探すためなのかもしれない。


「……いつの間に二人の連絡先を?」

「少しツテを使って二人の実家に連絡した。そして二人の母親に、『かならず息子さんを登校させますから』と言って個人の連絡先を教えてもらった。ちなみに石原先輩の本当の居どころは教えるつもりがない」


舞は小声で尋ね、赤坂も小声で答えた。

この男は結構な役者らしい。赤坂は一瞬で好印象を与える笑顔になり、呼吸の整った二人に告げる。


「俺が連絡した赤坂だ。石原先輩の居場所がわかったが、二人はどうする?」

「決まってる、誘拐犯から取り返すんだ」


いかにもインテリな、おそらくは高木らしき男の言葉に舞は驚いた。二人は石原を探しているらしい。それは彼女が誘拐されたと考えていたからだ。


「あいつ……妹尾が石原先輩を拉致ったんだよ!そうに決まってる!」


今度は顔のいい方、恐らく沢井らしき男の言葉に、舞の意識は遠くなる。しかしすぐ青島が彼女を現実に引き戻した。


「落ち着け。これは向こうの言いがかりだ」


冷静な青島の言葉に舞は徐々に落ち着きを取り戻した。

あの人畜無害な兄に、誘拐なんてできるはずがない。それに高木と沢井の目は血走っていて、冷静な判断ができていない事は明らかだった。


「これが石原の連絡先だ。行って彼女を助けてくるといい」

「お、おう、誰だかわかんねーけどサンキュー」


赤坂が高木にメモを渡す。それに石原の居場所が書いているのだろう。二人は納得がいかないようだが、それよりも石原が大事なのか素早く出て行った。


「さっき渡したのは橙堂の……七姉妹会会員の知り合いのアパートの住所だ。そこには俳優志望の若者が住んでいて、やってきた高木と沢井に芝居で灸を据えてもらうよう頼んでいる。これで彼らも少しは落ち着くだろう」


一仕事やり終え、ほっと息をつくように赤坂が説明した。


高木と沢井があの調子で部屋を襲撃する、しかしその部屋は全く関係のない一般人が住んでいて肝を冷やす、そして冷静になる、と考え、赤坂は事前に七姉妹会の一員らしき橙堂に根回しをしたようだ。


「あの、あれはどういう事なんですか?兄が誘拐犯って……」

「舞はあれを聞いて兄が誘拐したと思うのかい?」

「……いいえ。兄は誘拐なんてしないと思います」

「そう、妹の下すそれが冷静で正しい判断だ。しかし高木・沢井の両名はどうだ。あれは頭に血がのぼりすぎていて、正常な判断もできていない」


高木達の言葉が信用できなかったのは二人があまりにも冷静を欠いていたからだ。だから舞は彼らよりも兄を信じた。


「そもそもの元凶はあの二人だ。それにお兄さんや石原先輩は巻き込まれ、石原先輩が……少し、暴走したに過ぎない」

「え……」

「誘拐されたのは妹尾圭先輩で、誘拐したのが石原千鶴先輩だ」


赤坂は自信を持った様子で今回の事件について語った。






■■■






「そもそもこの事件は俺達が先入観を持ちすぎる事に原因がある。まずは『石原千鶴』先輩の事。舞は彼女の事を、どう思う?」


赤坂がお兄さんを迎えに行って一緒に帰ろうと言って、四人は荷物をまとめ学外へ出た。赤坂が先頭を歩き残り三人がその後をついて行く。舞は筑紫や青島に視線を送ったが、彼らもまだ詳細は分かっていないらしい。

わかっている事はこれから妹尾圭を助けに行く事だけだ。


「えっと、石原先輩ですね。会った事もないし今まで聞いた事もないから良くわからないけど、美人なんでしょう?……それで男の人にモテるというか、二股か三股かをかけていて」

「噂だけで判断するならば、そうなるだろうな」

「え?」

「本当は石原先輩は男をもて遊んだ事のない、純粋な人物かもしれない。男子に好かれ、その反面女子にやっかまれている人かもしれない」

「あ……」


女子である舞にはすぐ思い当たる事だった。

異性に好かれやすい人物は同性に嫌われる。表で良い顔をしている同性も裏ではひどい事を言うこともある。


「単純に石原先輩はモテるから女子にひがまれていた。だから妙な噂を流されていた。ただし、噂になるだけの材料は揃っていたのだろう。それが高木と沢井だ」

「高木・沢井が実際に言い寄っていたから、あんな噂を?」

「あぁ。俺達は噂話から入ったからな。おかげで妙な先入観を持ってしまったが、石原先輩の実家に行って確信したよ」



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