第6話 しつこい

「じゃあ、うちの兄はもて遊ばれている可能性があるんですか?」

「残念ながらその可能性はあるね。高木と沢井は目立つから、どっちかが本命だろうというのが女の子達の噂話だよ」


痴情のもつれ。兄がもて遊ばれたのではないかと筑紫から聞いてずんと舞は落ち込んだ。

気が抜けたともいうのかもしれない。へなへなとパイプ椅子の背にもたれかかる。


「……そう言えば、舞はお兄さんに十万を貸したと言っていたな?」

「あ、はい」

「普通に考えれば、石原先輩が巻き上げたのかもしれない」

「ですよね……でもそれならどうして兄は帰ってこないんですか?」

「借りた金を女に騙し取られたとしたら、申し訳なく思うはずだ。家族の元に帰れるはずがない」


赤坂はなるべく圭の気持ちを察してみた。今は自分を恥じて家族の元に帰る事はできない。しかしそれならいつかは無事な姿で帰って来るという事だ。舞としては力は抜けたが一安心、するはずだった。それだけではまだ解決していない。


「でも、それなら他の高木・沢井とかいう男子と、石原先輩までが行方不明な理由がわかりません。高木か沢井が本命ならお金をむしりとられていないはずだし……」

「そうだったな。ふむ、俺の考えすぎか」


赤坂も唸って考える。何かがおかしい。まだ情報は足りないようだ。

しかしこれ以上学校に残る訳にもいかない。


「もう遅い。ここから先は俺が調べよう。筑紫は舞を送ってやってくれ」

「うん、任された。さ、舞ちゃん一緒に帰ろう」


確かに外はもう暗い。これ以上学校にとどまった所で得る事もないため解散とする。

青島はアニメがあるとさっさと帰ってしまったし、赤坂はどこかに行ってしまった。舞は筑紫と共に帰路につくが、気になる事がある。


「赤坂先輩は、一人で調べるなんて大丈夫でしょうか?」


外に出れば日はとっくに暮れていた。

こんなにも遅くなったというのに赤坂は一人で調べるらしい。さすがにそこまでされるのは舞も申し訳なく思う。


「赤坂はしつこいから大丈夫だよ」

「しつこい?」

「執念深いというのかな。人間に関して、気になった事があるとほっとけないんだ」


筑紫的には褒め言葉なのかもしれないが、しつこいも執念深いもあまり人を誉める言葉ではない。しかし筑紫は舞を安心させるために告げた。


「舞ちゃんが気になったから調べ尽くしている訳だけど、それは自分のためで、舞ちゃんに見返りは求めていないから安心して」

「そうなんですか。確かにお金やお礼の話はしていないですよね」

「ただ、赤坂は執念深さは舞ちゃんの妹力にも発動してるから。その辺りは覚悟してね」


その言葉は赤坂に出会う前に聞きたかった、と舞は思う。


「まあ僕も執念深い方だからね。もちろん協力するよ」

「ありがとう、ございます。でも、青島先輩は大丈夫ですか? 三次元に興味はないのに付き合わせてしまって」

「平気平気。青島は口数少ないし率直だから誤解されやすいけど、悪い奴じゃないよ。一緒に聞き込みした時だって張り切っていたくらいだし」


赤坂と舞がお茶をしている間に青島達は聞き込みをしていたという。その際に青島が張り切ったというのは、舞には想像しがたい。しかし失言のせいか、それを挽回しようとしていたように思えた。


「単純に今回の事は人間として心配だからじゃないかな。同じ科で四人も行方不明になったし」


あれでいて青島は三人の中で一番常識的だ。

二次元三次元も関係のない事件に気を配っているだけで舞の事は関係ない。

そうだとわかっていても舞は三人の世話になりすぎた。


「無事に兄が見つかったら、兄と一緒に先輩方にお礼をしたいです」

「舞ちゃんなら大歓迎だよ。いつでも七姉妹会に来てね。また桃山の作ったお菓子とお茶出すから」

「それじゃお礼にならないような……何か、先輩方のためになる事がしたいんですけど」

「僕の場合、舞ちゃんが命令してくれると嬉しいな。殴ってくれても嬉しいな。無視された所でそれはそれで嬉しいな」


真顔でとんでもない事を告げる筑紫に舞はどん引いた。

だめだこの先輩、何をしても喜ぶ。どうにかして菓子折で礼を済ませようと考える舞だった。






■■■





翌日の放課後、舞は赤坂に呼ばれ普通科美術室にやって来た。

そこにはいつもと変わらない赤坂と、筑紫と青島がいる。お茶を出すまでもなく、赤坂は語り始めた。


「さて、今回の事件について調べてみたら進展があったのでそれを報告する事にしよう。まずは四人の行方不明事件について。これは高木・沢井・石原の家に聞き込みに行って、正確ではないと判明した。高木・沢井に関しては何度か帰宅したらしい。石原に至っては一人暮らしをしているという事で、家族としては行方不明とは言い難い状況だ」


淀みなく告げた赤坂に舞は目を丸くした。

信じられない。ただ一晩でこれだけ調べた行動力と、実際に彼らの家にまで行って聞く豪胆さに驚いたのだった。


「つまり、行方不明だと言っているのは学校側って事なの?」

「正しくは理数科生徒だな。学校としては単なる無断欠席だ。ただし妹尾圭と石原千鶴については学校・家庭も連絡を取れないという状況にあるため行方不明といえる」


あらためて噂と事実を比べていく。最初からこの事件は四連続した行方不明事件ではなかった。行方不明になったのは二人だけだが、他二人は連絡が取れている。

不審に思った理数科生徒がまいた噂のせいで、すべての欠席者が関連していると誤解してしまったのだろう。

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