第40話 プロローグ

 放課後、春太は呼び出された。

 誰から呼び出されたか、香織でも羽籠でもない。

 春太が気になってしまっていた、恋心を抱いてしまった人間から――呼び出されたのだ。


「待ってたよ」


 扉を開けたら、一人の女子の影と声が視界と耳に到達する。

 呼び出された教室、そこはレジ部の部室だった。

 時刻は六時ごろ。窓から差し込む逆光で、顔が見えない。だが、春太には声だけで――。

 いや、声がなくても分かる。

 心の底から惚れてしまった女子。その子のことになれば、声など介さず誰だか分かってしまう。

「……うん。呼び出して何か用?」

「春太に……、言いたいことがあります、……いいえ、あるの」

「言いたいことって何……?」

 彼女とは随分話していない。今更、何を言われるのか。見当もつかない。

「この前、遊園地に行ってから色々考えたの。恋とは何か」

 今日の彼女は、敬語ではなかった。まるで、香織のように、羽籠のように馴れ馴れしく話す。しかし、その声は震えていた。

「それで、気づいちゃったの。この気持ちは恋なんだって」

「楓花……?」

「春太に恋をするなんて、本当はいけないこと。ダメだってわかってる」

 声は震えていた。微かではない。あからさまに震えている。

 今にも泣きだしそうな声であった。


「本当、ダメだなあ……」


 涙交じりの声で呟くと、少女は動き出す。

 ゆっくりと、春太の目の前まで迫っていて、距離を詰める。気づけば――。

 唇に柔らかい何かが触れた。

「ごめんなさい。またね」


 楓花は、この日を境に学校に来ることがなくなっていた。


 そして、人間関係はさらに悪化していくのだった――。

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