第35話 遊園地④

 春太と楓花は遊園地を楽しんだ。

 パーク内の飲食店や、ジェットコースターやお化け屋敷。楓花が気に入ったコーヒーカップには何度も乗った。

 楽しかった。春太は心の底から楽しめていた。

 香織と一緒にいる時の気持ちじゃない。楓花とずっと一緒に居たい、そばに居たいと思えるほど、心地よい時間だった。

 時が経つのは早いもの。

 すっかり日も暮れて夕方になっており、そろそろ帰らなければならなかった。

 最後に楓花が、あの大きな回っている遊具に乗りたいです。と言ったことで、二人は観覧車に乗ることになった。

「すごい綺麗ですね。ロマンチックです」

「それはよかったよ」

「春太は、外の景色見ないんですか? 綺麗ですよ」

「あー……あまり高いとこ得意じゃないんだよ」

「えぇ。言ってくださいよ……」

 申し訳ないと思ったのか、外の景色を見ていたのに椅子に座ってしまう。

「別にいいよ。景色見てて」

「私がこうしたいからこれでいいんです」

「分かったよ」

「さあ、ではまたお話タイムと行きましょうか」

「……俺がまた質問するの?」

「はい。大盤振る舞いです。なんでも答えますよ」

 楓花に聞きたいこと。

 今度はしっかりと考える。

 だが、春太と楓花の関りは部活でしかない。なら、部活に関する質問を思いつくのが妥当だろう。

 恋愛成就部を作ったのは、羽籠。

 しかし、それは楓花が恋愛をしたかったから。

 ――なぜ? 楓花はどうして恋愛をしなければならないのか。

「じゃあさ、楓花。質問いい?」

「はい、なんでしょう」

「なんで、楓花って恋愛をしたがってるんだ?」

 観覧車から見える景色。夜だったため、夜景が綺麗に見えることだろう。

 ビルの光、民家からの光、街頭の光、遊具の光……全てがそれぞれ別の光を発することで夜景は完成される。

「私が恋愛をしたがる理由ですか?」

「そう。聞いたことなかったなって」

「面白くもなんともないですよ?」

「いいよ、いいよ。教えて」

「そうですねー……」

 楓花が、言いづらそうに悩んでいるのは新鮮であった。恋愛をしたいと言うのだ。

 それ相応の理由があるだろう。


「恋愛ができないと」


 重たい口を少しずつ動かす。少しずつ、少しずつ。

 まるで、コマ送りのように。


「許嫁と結婚させられちゃうんですよね」


 二人を包み込んだのは静寂。

 夜景が見える場所で、静寂。このような話ではなく、明るい話で静寂に包まれていたなら、どれほど幻想的だったか。

 この時、春太は初めて楓花の苦笑いを見たのであった。

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