第33話 遊園地②
結局、二人はコーヒーカップに乗った。それも、勢いが強く酔ってしまうほどのものに。
楓花は、「回るだけで何が楽しいのか」としか言わないため、なら乗ってみれば印象が変わるのではないかと提案し、乗ってみたらこの有様だ。
乗っている時は、最初は不信感を抱いていたが、それは後に消えることとなった。
回り続けるコーヒーカップ。楓花の青髪が揺らされるほど、勢いよく回る。
――その結果、春太は酔ってしまったわけだが。
「さあ、梓弓さん! 次はどこに行きますか!」
「……すまん。ちょっと気分悪い」
「もしかして、先ほどのコーヒーカップで具合悪くなりましたか?」
「うん、そうみたい」
「大丈夫ですか……」
「多分、椅子に座ってればそのうちよくなるから……。行きたいところ、あったら行ってきていいよ」
春太は基本インドア派の人間である。
外出することは少ないし、遊園地に行くなど滅多にしない。
「それは嫌ですよ。せっかく、二人で来てるんですから」
「でも、なあ……」
「いいんです。なら、私も梓弓さんと一緒に休憩します」
そういうと、春太が腰をかけていたベンチの横に楓花は座る。
スカートを手で整えながらゆっくりと腰を下ろす。
今日の楓花は、いわゆるガーリーコーデというファッションだった。胸元にリボンがあり、全体的に薄い灰色の服。くるぶしが隠れるほどの白い靴下に、黒いローファー。まるで、お嬢様のような私服であった。
普段の制服の着こなし方からして、想像できる私服であった。
「別にいいのに」
「ダメです。二人で来てますし。それに」
「それに?」
「私だけ楽しんでいたら、デートっぽくないです」
デートっぽくない。
今日は二人で遊園地にデートをしに来ていた。と春太は思い出す。
そうだ、どちらかが片方が楽しんではいけない。二人とも楽しまなければならない。
これはデートなのだ。少女が恋愛を知るためではあるが。
「そっか、分かったよ」
「分かってくれましたか? では、梓弓さんの具合がよくなるまでお話をしましょう」
「お話? 普段してるじゃないか」
「そうですか? 最近、梓弓さんは香織とばかり話していて私はあまり話せてませんでしたよ」
「そうか? 俺は話している気がしてたけど……」
「なんて言うんでしょうか。私に話しかけてこなくなったと言うか」
「あー……。確かに、話しかけてはないな」
「でしょう? だから、お話をしましょう」
「……はい」
楓花は変わらない。初めて話した時から、全く変わらない。
自分の思っていることに素直で、無表情で何を考えているのか見当もつかない。
人を心配しているのか、からかいたいのかも分からないのだ。
「そうですね。私に聞きたいこととかないんですか?」
「聞きたいこと? ……なんかあるかな」
「私は、普段恋愛とはどのようなものなのかと質問し続けてますし、今日くらいは答える側に回りますよ」
力こぶを見せつけながら、楓花は言う。
相変わらず、筋肉はない。
「そうだなー……、じゃあ……」
――好きな人っているの?
「え、いや……待って」
「どうしたんですか?」
「違うんだ。大丈夫だから……」
慌てながら楓花は心配する。やはり、まだ具合悪いのですか? と言いながら。
今のはなんだったんだ。突如、脳裏に思い浮かんだ言葉。どうして、春太は楓花の好きな人を知りたいのだろうか。
恋人の有無が気になる? どうして?
答えは出ない。
「じゃあさ、なんで俺を恋愛成就部に勧誘したのか教えてよ」
長い間、気になっていたことであった。
もう、夏になると言うのに春太は未だに勧誘された理由を知らないのだ。
前にファミレスに行った際、聞こうとしたら羽籠に遮られたのは記憶に新しい。
「前に言いませんでした?」
「結局、羽籠が言ったらいけないって止めたじゃないか」
「そういえば、そんなこともありましたね」
「じゃあ、教えてくれよ。未だに知らないんだからな」
「まあ、別にいいですよ。隠すことでもありませんし」
ゆっくりと開く。
これが、この一言が春太を大きく狂わせるとは。
この時思いもしなかった――。
「香織が、春太のことを好きだからです。今現在で思いを寄せられている男性の存在が必要でした」
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