第26話 提案

「ようこそ、いらっしゃいました。レジ部の部室へ!」

 羽籠が、高らかに宣言する。

「レジ部……?」

「そう! ここが、あたしたちレジ部の部室だよ」

 春太と香織がつれてこられたのは、部室棟にあるレジ部の部室。

 部員ではないので、香織は部活の存在を知らないだろうし、部室に来たことさえない。驚くのは仕方ない。

 ここまで、学校離れした部室だ。初見であれば誰でも驚く。

「こんなところが学校にあったなんて……、ここはなにをする場所なの?」

 羽籠が突如、秘密基地のような綺麗な部屋に招待したら、驚きと疑問が湧いてしまうだろう。

「ここはね、恋愛をする部活の部室だよ」

 一歩ずつ、一歩ずつ、カツンカツンと足音が鳴らし、羽籠は香織に距離を詰めてから言う。

 上履きが床と触れ、緊迫感のある音を醸し出していた。

「恋愛をする部活……? そんなのがあるの?」

「そうよ! ここは恋愛成就部、通称レジ部の部室!」

 二度目の宣言。羽籠は満足したのか言い終わると、レジ部名物やたら多いソファの一つに腰をかけてしまう。

「……で、なんで辻さんと俺を部室に連れてきたんだよ」

 疑問をそのまま口にする。部室を見せたいだけなら朝から連れてくる必要はないし、ましてや香織は部員ではない。何か、部室じゃないとできないことをしに来たのだろう。

「そうね。結論から言うわ。二人とも今すごく困ってるでしょ?」

 ソファに座りながら気怠そうに羽籠は言う。その目はどこか輝いていて、自分なら助けれるとでもいいたげだ。

「困ってるよ! 主に、さーちゃんのせいで!」

「あたしのせい!?」

「そうだよ! さーちゃんが広めたんでしょ?」

「流石のあたしでもそんなことしないけど……」

「だって! ぼくと春太くんが出かけたの知ってるの、さーちゃんだけでしょ?」

「……いやいや。なんかめちゃくちゃ広まってたよ。香織。あんた、ファミレス行ったでしょ? あの、いつものとこ」

「うん……行った」

「めっちゃ見られてたらしいよ……」

「あ……そこまで考えてなかった」

「……うん。あたしは悪くないよ」

 香織は、的を射抜かれたかのように納得し羽籠は呆れる。学校内で誰もが行くと言われている隣駅のファミレス。そこに、男女で訪れていたのだ。

 それも、辻香織と言うクラスでも目立つ女子が――。目立つに決まっている。

「だからこその、提案があるのよ」

 羽籠は、勝ち誇ったように香織を指さしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る