第25話 羽籠のせい
そして時は流れて、休み時間。
「春太くん! ちょっと来てっ!」
「えっ、ちょっと……!」
「いいから、お願い! 黙ってついてきて!」
「……わ、分かったよ」
HRが終わった直後。一限が始まるまでの数分の時間。
香織は春太を連れて教室を出て行ってしまう。連れてこられたのは、人目のつかない廊下の一角であった。
「迷惑かけちゃって、ごめん……」
香織は辺りに誰もいないことを確認すると、春太に謝る。手を合わせて頭を下げながら。
「そんな、謝らなくても……。頭上げてよ」
「でも、ぼくのせいで付き合ってるみたいになっちゃって……」
「誰のせいかで言えば絶対、羽籠のせいだと思うけど」
「それはそうなんだけどさ……。でもなんだろう……うーん……」
誰が悪いかと言えば、羽籠が悪いだろう。しかし、羽籠が悪いわけではない。
香織を励まそうと映画を見ることを了承した春太も、春太のことが好きな香織も、二人を仲直りさせようとした羽籠も……悪くはない。
「まあ、教室には戻りづらいよな」
「そうだね……。どう誤魔化せばいいのか」
香織と春太は二人で教室を出てきてしまっている。このまま教室へと戻れば、再び注目の的となり、弁明するのはほぼ不可能だ。
では、どうするか。
答えは出ない。
春太からすれば、経験したことのない出来事で解決策など思いつかず、香織からすれば春太と付き合っていると思われることは否定したくない。
お互いがお互い、思ってることは違えど一つの意見は一致していた。
((このままじゃ教室に戻れない))
教室が騒ぎになったから香織は飛び出したのだ。この二人でいる状況も危うい。見つかってしまうと、面倒なことになるだろう。
「こんな時、さーちゃんならどうするんだろう……」
香織はいつしか頼りたくない人間を頼ろうとしていた。
「あのさ、今言うことじゃないと思うけど……さーちゃんって羽籠のこと?」
「あー……そうだよ。鎖奈恵だからさーちゃん。シンプルでしょ」
「由来とかあったりするの?」
「由来と言うか……名前が読めなかったんだよね」
「読めなかった?」
「うん。でも、『くさり』って読まないだろうし、読むなら『さ』って読むのかなって」
「なるほど。それでさーちゃんなのか」
「そうだよ~。鎖みたいに巻き付いてくる子だし名前通りの子だと思う……ん? どうしたの、春太くん」
青ざめた顔で、春太は香織のことを震えながら指さす。
「……あのさ、辻さん。後ろ」
「後ろ……? うわああああ!? さーちゃん!? どうして」
香織が振り返ると、そこには不気味なほど笑顔な羽籠が立っていた。
「いや、ね。面白そ~と思って後をつけたのよ。そしたら、まさか悪口を言われてるとは……ね」
「違うの、さーちゃん! 悪口じゃなくて……」
香織は必死に弁明する。不機嫌な羽籠を宥めるように。
「もう、いいわ。そもそも、盗み聞きするためだけに来たわけじゃないしね」
「それって、どういうこと?」
「まあ、ついてきなさいって」
そそくさと進んでしまう羽籠を見ながら、春太と香織は顔を見合わせ不思議に思いながら後をつける。彼らには、今羽籠に頼るしか道はないのだから。
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