第24話 勘違い
「お、おはよー……、みんな久しぶり~……」
その時、教室の扉が開いた。辻香織の登校だ。
そして、視線の全てが彼女に向く。一瞬で全ての視線が集まったのだ。
「ちょっと香織! 梓弓君と付き合い始めたってどういうこと!? 聞いてないんだけど!」
一人の女子が、香織に話しかける。
自分の席を立つなり、すごい勢いで。
まるで、イノシシの突進。もしくは、ターボエンジンを搭載した芝刈り機かの如く。
「えっとー……、え?」
香織は頭の中が真っ白になる。登校してくるなり、いきなり春太と付き合っているか聞かれたのだから。
久しぶりの登校。なんとなく、行きづらくなって学校に行かなかったせいで、生活リズムは狂ってしまい、朝起きるのは困難だった。それに、朝起きて用意しても学校に行く気が起きなかった。
一度不登校になると、身体が登校を拒む。それでも、香織は学校に来た。
春太の顔を見るために。
その結果、女子生徒に春太と付き合っているのかと聞かれるのだから思考は停止してしまう。
「ねえ、答えてよ!」
クラスの視線が全て集中する。畏怖ではなく、期待の眼差しが。
それどころか、「ついに辻香織も落ちたか~」などと男子に嘲笑われたりもしている。
どうして?
何があったら、香織と春太が付き合っているのかとなってしまう。
香織は考えた。
考えようとしたが、考える前に答えは出た。
(絶対、さーちゃんのせいでしょ……!)
そう思い、詰め寄られているが羽籠の席に目を向ける。睨みつけるように、羽籠を見つめるが、帰ってきたのは――。
満面の笑み。
(どうして、あんなに笑ってるの……!)
完全に遊ばれている。噂を流したのも、羽籠かもしれない。
助けてはくれない。どうやって、抜け出そうかと考えるが答えは出ない。
「香織。今どこ見てたの……?」
そう言いながら、ある女子は香織の見ていた方向を目にする。
そして、そこにいたのは。視界に入ったのは。
「……梓弓君のことを見てたの?」
誤解されても仕方はない。羽籠は隠れるように、寝たふりをしてしまい香織の視線の先には春太がいるように見えないようになっていた。
恐るべき、羽籠鎖奈恵。現状をややこしくする能力に長けすぎている。
「違う。そうじゃなくて……」
香織はどうしたらこの状況を打破できるのか悩んでいた。全身から汗は吹き出し、自分が自分じゃなくなるような気分に支配され、視界は汗で霞む。
しばらくしたら、意識が飛んでしまいそうな感覚に陥る。
だが、この日だけは助けられた。
この日は珍しかった。
誰もが望んでいない、時間通りに教室の扉を開ける担任。
この日だけは、珍しく時間を守ったのだ。
「はーい。そこ、席ついて~。HR始めるわよ~」
教師が、今何が起きていたのか分かるはずがない。
たちまち沈みかえる教室。
このまま教室は静寂に包まれることとなる。
……HRが終わるまでは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます