第23話 月曜日

 月曜日。

 春太はいつも通り登校し、教室に入り、席に座り、携帯をいじっていた。

 いつも通りの変わらない日常。

 教室もいつも通り騒がしく、一番騒がしかった人間が退学になったことで少しは静かになったが、それでも騒がしい。

 高校生たちが作りだす喧騒。その喧騒には、独特な響きが含まれる。

 人間は、人の話をする時は目が泳ぐ。そう、自分たちがしている話の登場人物が近くに居れば、目は泳ぐし、チラチラ見たりもする。

 芸能人が自分の近くに居たら、もしかしたらあの人芸能人じゃない? と、噂し近づいて写真をお願いする人もいる。でも、それは有名人だから。知名度があり、好感度が高いから。

 それが、クラスの目立たない人間となると写真撮影などお願いされない。ただ、こそこそと陰気に話が展開されるのみ。

 梓弓春太は目立ってしまっていた。もちろん悪い意味で。

「あー、春太クン。これは完全にやってしまいましたね」

 後ろの席に座っている羽籠が小声で話しかけてくる。

「やったって何が……」

 春太は大体見当がついていた。自分が何故、噂されているのか。考えれば考えるほど簡単で、思い当たることは一つしかない。

「どう考えても、昨日のことだよね。香織とかまだ学校来てないし」

 羽籠の言う通り、香織はまだ登校して来ていなかった。

 香織は先週、月曜日以外欠席している。だから、来ないと思われても仕方ない。

 のだが……、このざわつき。

 知られているのだろう。

「……俺はどうしたらいいんだ?」

「香織と付き合ってますって言えば言っちゃえばいいんじゃない?」

 その時、椅子が揺れた。

 自分の席で読書をしていて、クラスメイト同士の会話を全く聞こうともしない少女の椅子が揺れた。

 春太と羽籠の席からはそれなりに距離がある。それに、教室は騒がしい。

 相当、集中して耳を澄ませないと聞き取れないはずだ。

 それでも聞き取れたということは、それほど気になっていたのだろう。

 少女は席を立ち、春太と羽籠に近づく。

 一歩ずつ、一歩ずつ。そして、また一歩。

 しばらくすれば、青髪無表情の美少女と春太がご対面してしまう。

「梓弓さんと、辻香織は交際を始めたのですか……?」

 霧払いしたように、消化したように、時が止まったかのように。

 教室は沈黙に包まれた。

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