第21話 うん、また 学校で

「いや~! 面白かったね、春太くん!」

「ほんとほんと! 最後めちゃくちゃよかった!」

 香織と春太は映画を見終わり、ファミレスに来ていた。羽籠と楓花と来たところと同じ店だ。

 春太はあまり乗り気ではなかった。だが。香織に不快な思いをさせたくないと思った。それに映画の感想を語り合いたいことを考えると、別にいいかとなっていた。

 それに、香織は話したいときはみんなこのファミレスに来ると言っていた。

 あの時提案したのは羽籠だったし、学生はみんなここに来るそうで。そう考えると、クラスの連中と出くわしてしまったのも自然と言えば自然だったのかもしれない。

「ねえ、辻さんは一番どこのシーンがよかった?」

「そうだね。やっぱり……、プラムに見捨てられたマコイが自分の過ちに気づきながら、命を落とすところかな」

「……分かってる。辻さんは分かってる。信用の塊だ」

「でしょ? マコイは自分のしてきたことが、正しいと思っていたのに最終的にはプラムや、バトンの迷惑になってなかったんだもん。死ぬ直前に、ちゃんと周りの意見を知れてよかったのよ……」

「だよな。あのまま、死ななかったら悪を正義だと肯定することになっちゃうもんな……」

「そうそう。声優さんの演技も良かったんだけど、やっぱりEDへの入り方がすごく綺麗で」

「もしかして辻さんって俺なのか……?」

「プラムも言ってたじゃない。『私は、私であってあなた自身なんですよ』って」

「まじで、分かってる。本当にわかってらっしゃる……」



 春太と香織はこのまま盛り上がった。盛り上がるに盛り上がった。

 共通の話題と言う男女が仲良くなってしまう最大の好感度アップアイテムを手に入れた二人の話はもう止まることを知らない。

 もう、映画館でカップル専用のポップコーンを頬張っていたことなど微塵も覚えてないだろう。

 今、二人の脳を支配しているのは『ただいまの夜に決別の薔薇を送ろう』という作品の素晴しさと、それを語り合える今の状況。楽しくないはずがない。

「でも、驚いたよ。辻さんがこんなにアニメが好きだなんて」

「いやー……、なんかクラスであんな立ち位置にいると言いづらくって」

「まあ、そうだよな……。辻さんとかその周辺は雰囲気を見てるとなんとなく分かる」

「みんなアニメとか興味ないだろうし、ぼくが自分から話を振ることもないし」

 そういうと、香織はドリンクバーから持ってきたりんごジュースを飲み始めた。刺された透明なストローが薄い黄色に変わる。

「え、そうなんだ。みんな辻さんのところに集まってるし、自分から話しかけてるのかと」

「ううん。ぼくはいつも話を聞いてるだけだよ」

「なんか意外だ。本人から聞かないとわからないものだな」

「というか、ぼくって春太くんから見てどんな印象なの?」

「印象って……なに?」

「そのままの意味だよ。今の話からすると、ぼくがどう思われているのか気になるじゃん」

 印象か。少し言葉は違うが、前にも楓花に同じようなことを言われたと思い出す。あの時は、印象じゃなくて分析と言われた気がするが。

「うーん。キラキラ系女子……?」

「なにその頭悪そうな名称は」

「友達たくさんいるし、お洒落だし……俺とは住む世界が違うと言うか」

「な……なるほど」

「なにも伝わってなさそうに見えるけど、気のせい?」

「大正解。何も伝わってないよ」

「ははは……、日本語下手でごめん」

 このまま、二人は他愛もない話をし続けた。

 まるで、昔から仲のいい幼馴染のように、話は途切れない。

 映画を見終わった昼過ぎから夕方まで机を挟み話し続ける男女。

 これをデートと呼ばずになんと呼ぶのか。

 一人は開き直りデートだと思いながら話している。もう一人は、自分がデートって言うなんておこがましいと思いながら話している。

 気が合う男女なのに、心情はどうして一致しないのか。

 それはこれが恋愛だからだろう。

 片思いをしている人間と、されている人間では受け取り方も見える世界も違う。

 だけども、失恋後に見える世界は灰色に見え自分がこの世界に不必要な人間だと思えててくる。

 負けヒロインしか到達できない、灰色の世界。

 辿り着く日は……近いのかもしれない。


 ※


 すっかり夜になっていたため、二人は遅めの昼食を終えると解散することに決め、駅へと向かった。

 どうやら、香織は学校からかなり離れた駅が最寄り駅なようで、毎日通学に移動を含めると一時間かかるそうだ。

 どうして、そんな遠い高校を受験したんだ、と思うが、人それぞれ理由はあるはずだ。春太は詮索をしないでいた。

 男子が女子を見送るのは当たり前だと言うが、流石に遠すぎる。香織が遠慮してしまいそうなのもあるし、春太にも門限はあった。

 そのため、見送るわけにもいかず改札を通ったら二人は別れの挨拶をした。

「今日は楽しかったよ。ありがとね、春太くん」

「それはこっちの台詞だよ! まさか、辻さんとここまで話が合うなんて思いもしなかった。まるで――」

 くろろと話してるみたいだ。と春太は思った。

 けど、目の前にいるのは辻香織。スクールカースト上位にして隠れオタクである美少女だ。

 春太のネッ友ではない。

「ん? どうかしたの?」

「いや、なんでもない。こっちの話」

「そう? ならいいけど。じゃあ、ぼくこっちだから」

「あ、うん。じゃあね」

「うん、また」

 香織は笑顔で春太に手を振る。

「学校で」

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