第20話 映画館

「着いちゃったけど……めちゃくちゃ時間あるな」

「じゃあ、ポップコーン買おうよ。ぼく、喉渇いたし飲み物も買いたい……」

 羽籠が仕組んだ通り、春太と香織は映画館に訪れていた。

 駅から歩いて数分、それなりに大きい映画館がそこにはある。

 春太は、香織がオタクバレして学校に来れなくなっていると思い込んでおり、香織は数十年間も好きでいることを知られていると思い込んでいる。

 そのため、二人の会話の温度差は激しい。

 春太は、自分は無害な人間です、広めたりしませんと言いたげなように無難のやり取りをし、香織は開き直って春太に積極的にアタックしている。振られてもいいと、思ってしまっているのだろう……。

「あ、春太くん。これにしようよ! 『カップル限定! らぶらぶあまあまたぴたぴセット』男女ペアなら買えるみたいだよ」

 香織はこう考えている。

(カップル限定商品を買うことに了承したら……これ告白してもオッケーもらえるよね!?)

 しかし、春太は表向きでは冷静だった。

「あー、そうなのか。でも、俺らカップルじゃないけどいいの……?」

 春太はこう考えていた。

(いやいやいや! 嘘だとしても、カップルって言うのダメだろ! 俺と辻香織なんて釣り合うわけないし……)

 そういえば、一度楓花に告白と誤解しそうになることを言われたなと思い出す。女子って思ったよりも、付き合ってるふりとか告白とか平気でしてしまうのだろうか。

「大丈夫、大丈夫。それとも、ぼくと付き合ってると思われるのが……嫌?」

 香織は上目遣いで春太を誘惑する。誘惑……強引に了承させようとしている。

 辻香織は可愛い。読者モデルと間違えられそうな羽籠くらい可愛いし、もしかしたら楓花よりも可愛いかもしれない。

 レザージャケットにホットパンツ。特に下半身の露出が激しくて、上目遣いから避けようとすると、胸に目が行く……それも避けようとしたら、下半身に目が行く。

 金縛り。

 春太に逃げ場所などなかった。

「いや、え……じゃあそれにしよっか」

「ほんと? やった!」

 香織はたちまちご機嫌になる。そんなにタピオカセットみたいなのが飲みたかったのかと思ってしまう。

 しかし、これは恋愛が絡んだ面倒なすれ違い。

(春太くんって……まだぼくのこと好きなのかな)

 両者とも幸せになれるのだろうか。

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