第17話 羽籠鎖奈恵の暗躍②

【さなえ:春太クン、元気?】

【春太:元気ではないけど、どうしたの?】

【さなえ:日曜日のことで話があってさ】

【春太:あぁ、うん】

 やっぱり行かないと言われるのだろうか。羽籠はアニメに対して興味がない。

 見る気が起きないと断れる可能性はあった。

 だったら、仕方ない。一人でも行こう、久々に外出する気になってたし。

【さなえ:そういえば、待ち合わせ場所決めてなかったなって】

【春太:そういえば、そうだった】

 どうやら、羽籠はちゃんと映画に行くらしい。こういっちゃなんだが、意外だ。

【さなえ:駅前の噴水で大丈夫?】

【春太:駅前の噴水って、あそこだよな】

 駅前の噴水と言えば一つしかない。この前、春太たちが課題活動をするために訪れた河原駅のことだろう。駅前には大きな噴水があり、そこは待ち合わせ場所として有名だ。

 あまりに人が多すぎて、待ち合わせ場所で待ち合わせたのに、鉢合わせできないと皮肉を言われたりもする。

【さなえ:そう、河原駅のところ】

【春太:おっけー、十時に噴水前ね】

【さなえ:それでなんだけどさ、あの噴水って当てにならないじゃない?】

【春太:まあ、そうらしいね】

 噴水前には、人が集まる。どうやら、あるアプリのスポットやジムにもなっているそうで、噴水に腰を掛けれることもあり、人が集まるどころの騒ぎではない。

【さなえ:だからさ、服装をあらかじめ教えとこうと思って】

【春太:なるほど?】

 その手があったか、と春太は驚く。近くにいるはずなのに、ずっと携帯で『どこ?』と連絡を取り続けるのは不毛だろう。服装を伝えておけば、そんなこともなくなりそうだ。

 だとしても、服装まで教える必要はあるのだろうか。

【さなえ:えっと、あたしはね。黒いキャスケットに、ホットパンツ、レザージャケットかな。大雑把だけどこんな感じ】

【春太:えっと色は?】

【さなえ:ちゃんと黒いレザージャケットだと思うよ】

【春太:全体的に黒いやつがいれば羽籠と】

【さなえ:その覚え方なんか嫌だなあ】

 このやり取りで、春太の頭の中では『羽籠は全体的に黒くて噴水らへんにいる』と脳に刷り込まれる。

 これが、羽籠の策略だとは気づく由もなかった――。

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