第11話 ファミレスへの来訪者
「あれ? 羽籠じゃん! 帰ったんじゃなかったんかよ」
春太たちが談笑を始めてから数分。
羽籠の汗も、完全に引いてきたところで、イベントは起きた。
それとも、汗の引くタイミングが次のイベントへの合図だったと言うのか。
「別に帰るとは言ってないよ~? 香織が来ないなら行かないって言っただけ」
羽籠は、話しかけてきた男子をあしらう。それも、不機嫌そうに。
集団に目を向ける。
いつも、辻香織の席周辺で固まっている男子と、女子が数名。数にして、五人ほど。
派手めなメイクで宇宙人みたいになっている女もいれば、腕に鎖を巻いている腕毛の濃い男もいる。
嫌なタイプだ、関わりたくないと春太が直感で思ってしまう集団。
所謂スクールカースト上位に所属している集団とは関わりたくない。
「じゃあさ、今からカラオケいくべ。羽籠が来るなら、みんな行くよな?」
「行かないわよ。今あたしは、楓花たちと遊んでるの」
「あぁ? ……お前、こんなやつらと遊んでるんかよ。楽しい?」
「あたしが誰と遊んでも、あたしの勝手じゃない?」
「こんなやつらと遊ぶより俺らと遊んだ方が楽しいっしょ」
なあ、お前ら。と、男が言うと笑いが伝染する。広範囲にかかる呪文のようなエンハンス。王の号令一つで、彼らは笑い袋にでもなれると言うのか。
目の前で、嘲笑われるようなことをされると気分が悪くなる。
「私たちは今食事をしています。邪魔しないでもらえますか?」
その時、楓花が会話に口を挟んだ。
羽籠を助けようとしたのか。
机に並べられているのは、先ほど楓花の頼んだ苺パフェ。それを、楓花は長いスプーンで掬い口に運びながら、言葉を発した。
どう見ても、挑発しているようにしか見えない。これじゃあ、相手を逆上させてしまう。
「あぁ? 何だお前、転校生じゃねえか」
「だからどうしたって言うんです? 私は既に在校生ですが」
「俺らはな、今から羽籠と遊ぶんだよ。お前は帰れ」
「羽籠さんが、あなた方と遊ぶって言いましたか?」
「そんなの、お前が帰れば済む話だろ?」
「どうして、帰らないといけないんですか?」
楓花は、あからさまに挑発していた。我が強い女子が、頭の悪そうな男子に絡まれたのなら、それは言い返すに決まっている。
ナンパされたら、強気に反抗して男を怒られるタイプなのが風見楓花だ。
……どうしたものか。
春太は、困惑していた。
このまま、逆らえばたちまち春太はクラスで浮いてしまうだろう。彼らは、一応スクールカースト上位の人間。誰もが刃向かうことなんてできない。
そんな人間に春太が刃向かったら……?
暴力、いじめ、それよりも酷いことが待ち受けているかもしれない。怖い。物怖じしてしまう。
羽籠はどうするつもりなんだ? と、目を向けると楓花を宥めることに必死になっている。このまま待っていても、状態が収束するとは到底思えない。
女子が二人、男に絡まれている。
最適解は――分かっていても身体が動かない。
「おい、お前。それ以上、突っかかるとただじゃ済ませねえからな」
「ただで済ませない? 具体的にどんなことをするのでしょうか」
「――チッ。頭にくる女だな! お前のことなんかな、クラスで浮かせることなんて簡単なんだよ」
男が、楓花の胸倉を掴む。強引に掴み、威圧する。
引っ張るように、今にも殴ってしまおうかと言わんばかりの力で。
流石に周りの取り巻きも止めようとしているが、男は止まらない。相当頭にきてしまったのだろう。
「ちょっと、あんた! やめなさいよ!」
「るせえな! 元はと言えば、お前と香織がドタキャンしたからこうなってんだろ!」
「だからって、楓花に八つ当たりすることないでしょ! ……ほらっ、放しなさいって!」
羽籠は強引に、男の手をどかそうとする。
男に関しては、「生意気なことを言ってしまって、ごめんなさいくらい言ってみろよ、なあ?」と楓花を威圧する。
最低だ。
女性に対してしていいことではない。限度がある。
威圧。ただの八つ当たりで。
人間性を疑う。こんな人間が牛耳っているのが自分のクラス?
なら、ちょうどいい。
ちょうど、学校をそろそろ休みたくなっていたところだ、と春太は覚悟を決める。
していいことと、してはいけないこと。それについて文句を言う権利は誰にでもある。
明日から、学校でいじめられるかもしれない。居づらくなるかもしれない。
それでも、春太は動けずにはいられなかった。
(主人公なら、絶対ここで助けるよな)
春太は覚悟を決めた。
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