第9話 不穏

 時は流れて、月曜日。春太は授業中、ずっと睡魔と戦っていた。

 毎週月曜日は決まって眠い。眠気と戦いながら、授業を受けているしなんなら寝ている時もある。

 だから、HR中に寝てしまい、周りの生徒が下校をし始める中。春太は、一人の少女の声によって、目を覚ましたのだ。

「……みさん。……さ……み、さん。…………梓弓さん」

「うわあああぁぁぁ! びっくりした」

 春太は、飛び上がるように起きる。もとい、目を覚ます。

「びっくりした、じゃないです。放課後です、起きてください」

 顔を上げると機嫌が悪そうな楓花と、机に腰を掛け携帯をいじる羽籠がいた。

「……俺に何か用?」

「部活です」

「……まあ、だよね」

 楓花が春太にある用事。部活動以外ないだろう。

 他人に興味がないであろう楓花が、人に話しかけることでさえ珍しいのだ。

「はい。宣言通り課外活動をしようと思います」

「……そうだったな」

 先週の金曜日。月曜日は短縮日課であるため、課外活動でファミレスに行こうと羽籠が提案した。

 春太は家で寝たいから断りたかったのだが……楓花に怒られてしまう。部員としての自覚が足りないと。

 結果、恋愛成就部は月曜日の放課後に課外活動としてファミレスに行くことに決まったのだ。

「では、そろそろ行きましょうか。羽籠さ――」

 楓花が口を開いた刹那――。問題が起きた。

 楓花が途中で喋るのをやめ、羽籠に目を向けた時のことだった。

 喋るのをやめた楓花を見て何があったんだ、と同じように春太も羽籠に視線を向ける。

 しかし、羽籠は先ほどと変わらない。机に腰を掛け、携帯をいじり続けていた。それもすごい速さで。

 音楽ゲームでもしてるのか。と言いたくなるほど高速でフリックした後、羽籠は携帯を自分の耳に当てた。誰かからの連絡が来たのだろうか。

「だーから、今日は行かないって言ったじゃん。香織だって来ないんでしょ?」

 電話に応じた羽籠は不機嫌そのものであった。

 教室で春太に話しかけるような、妖艶な猫みたいな喋り方ではない。声のトーンが低く、多少の威圧を感じる。

 香織と言う単語から察するにクラスの人間からどこかに行こうと誘われているのだろうか。

「香織が行かないなら、あたし行かないから! 香織がいる時に呼んでよ、それじゃ」

 羽籠が耳から携帯を離し、画面に触れる。

 そして、訪れる沈黙。

 楓花も、春太も口を開くことが出来なかった。

 普段は温厚で陽気な羽籠が声を荒げたのだ。誰であろうと、度肝を抜かれる。

 羽籠に話しかけようとしていた楓花は立ち尽くし、何が起きているのか分からない春太も立ち尽くす。

「あれあれ? 二人ともどうしたの? 黙り込んじゃって」

 意外にも、静寂の均衡を破ったのは羽籠の一言だった。

「いえ……、羽籠さんがお取込み中だったもので」

 楓花が返答する。心なしか、恐れているようにも感じた。恐れているような、心配しているような……深い事情でもあるのか。

「ごめん、ごめん! 電話来ちゃってさー……たはは」

 羽籠は、たちまち苦笑い。場を和ませようとする。

「そっかー、あたし待ちだったよね。ごめんね、春太クン」

「……別にいいよ。電話するくらい」

 春太は、当たり障りないことしか言えない。不機嫌だった女子を責める度胸など兼ね備えて……ない。

 それに対して、「ありがとう……」とお礼を述べる羽籠。先ほどの険しい表情からは、同一人物だとは想像もつかない。

 しかし、険悪な雰囲気が覆されることはない。誰かが強引に、話を進めないと解決されないように思えた。

 だからこそ、動いたのだろう。

 ある少女の一言により、春太たちは課外活動を始めることとなる。

「じゃあ、気を取り直して課外活動始めよっか!」

 またしても、静寂の均衡を破ったのは羽籠であった。

 

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