第3話 校舎裏にて。
しばらく歩いていくと、風見楓花は校舎裏で足を止めた。
校舎裏。
生徒が下校して騒がしい中でも、静かな空間。
聞こえてくるのは、風に揺られる木々の音と微かに聞こえる運動部の喧騒。
時折、聞こえるのはヒールを履いた教師が、必要以上に音を立てる足音。それくらいだ。
隔離されているのではないか、と呼べるくらい学校内には似合わない静かな空間。
——そんな校舎裏に男女の影が二つ。
一人は、パッとしない目立たない男子、梓弓春太。
もう一人は、青髪が特徴的な人形のように肌が白く、綺麗な少女——風見楓花がそこにいた。
向かい合うにしては、アンバランスな二人。
そんな二人が何をしようとしているのか……当事者である春太にさえ分からない。
「ここまで来たら誰もいませんよね」
「……いないと思う」
静寂に飽きたのか、風見楓花が話を切り出す。
透き通った青髪に、春太の首ほどまでしかない身長、校則を一つも破らずとも着こなされた制服……そして、表情変化が微塵もない顔。無表情が、彼女自身のスペックを台無しにしていると言っても過言ではない。風見楓花は、表情一つ変えない。まるで、感情がないかのように。
「呼び出したのは、他でもありません。あなたに用があるのです」
——その時、風が吹いた。
二人の間に割り込むように、何かを報せるように。
その風を合図に、少女は真剣な面持ちとなる。目が吊り上がってキリッとしているように見えなくもない。
補足すると、見えなくもないだけだ。表情変化が希薄すぎて本当は表情など変わっていないかもしれない。
それくらい、無表情で感情変化が顔から読み取れないミステリアスな少女は——。
春太に何を告げようとしているのだろうか……?
「よ、用って。何……?」
徐々に実感が追い付いてくる。
胸の鼓動が、秒数を重ねるごとに早く、早く、早く、早く…………早くなっていく。
正確にリズムを刻めなくなったメトロームがBPMを上げていくように、壊れた掛け時計の針が加速していくように。
この心拍数の上昇と、止まらない汗の正体を春太は知っていた。
緊張。
それが、春太の身体を支配してしまい、身体から水分を奪っていく。
どうして、ここまで緊張しているか。
答えはシンプルだ。
話したことがないから。ただ、それだけ。
話したこともない相手。どうして呼び出されたかも分からない。
それでも、春太の考えなど関係なしに物事は進んでいく。
風見楓花がゆっくりと口を開く——。
「私に——」
「付き合ってくれませんか?」
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