第8話「邂逅相遇」

「はじめまして、石川 吟いしかわ ぎんと言います。」

「これはご丁寧に。」

カガヤは吟の紹介と先日の報告をする為、セシルの家に集まっていた。

やはり体調が悪いのか布団に入ったままのセシル、その隣に千星、テイラと並び、カガヤと吟が隣に座っている。

「吟は水を自由に操る事ができるみたいで、海の上で戦ったんだよ。」

「うん、うちもあんな事ができるなんて、キュオーンデアってすごいんだね。」

「あたしは地面から人形を何体も作ったよ。」

「お人形、それはかわいいですね。」

それぞれが新しく入ってきた吟との会話をしてる中で静かに千星が立ち上がる。

「ふふふ。」

千星が不敵に笑う。

「拙者は以前より計画していたのだが、そろそろ呼び名を決めないか?」

「呼び名?」

「そう拙者達キュオーンデアと呼ばれるようになったが、まだ個別の呼び名が無いではないか、だからこの際それぞれの呼び名を決めてみてはいかがかなと。」

「呼び名って、レッドとかブルーとか?」

「そうそう、カガヤはレッド、セシルはグリーン、拙者はブルー・・・」

「あ、千星ブルーは吟がいいと思う。」

「な、なに!?」

「うん、けどどっちかというとうちは水色だけど。」

「けど、千星はどっちかというと紺色だから、ブルーは吟の方が合っているよ。」

「そ、そんな。」

「もういいかしら?」

千星が落ち込む中、セシルが話しを始めた。

「先日の件、カガヤから話を聞いたのですけど、剣 万次足けん まんじそくと名乗った男が現れたらしいわね。」

「うん、あいつはなんなの?」

「もう五人も集まったのだからいい頃でしょう、私たちのこの能力の説明を。」

「そういえばあまり気にせず変身していたけど、何なのこの能力、正義の味方的な。」

「ええ、皆さん”南総里見八犬伝”はご存じですか?」

「たしか江戸時代に書かれたお話だったっけ?」

「そうです、説明ですので簡単に説明すると、里見家を呪う玉梓という女が里見の城を乗っ取り、その城を選ばれし八人の犬士によって取り戻すお話です。」

「そうなんだ。」

「本当はもっと複雑な話なんですが、今回は説明の為に簡単にしました、そしてその八人はある物よって導かれるのですが、それがなにかわかりますか?」

「導かれたって?運命的な?」

「たしか八個の玉をそれぞれが持っていたとかじゃなかった?」

「その通りです、八犬士は八個の珠を持っていて集められたとなっています。」

「たま?はてどこかで?」

セシルは神具を手に取り、ハマっていた珠を外して前にかざした。

「この神具に付いている珠、これは我が家に祭られている珠なんですが、これがその八犬士の珠だと言われています。」

「え、マジで」

「まぁ話の流れ上そうでしょうね。」

「せ、拙者はそうだと思っていたぞ。」

(絶対ウソだな)

横目で見るカガヤ。

「わたくし達は代々この珠の能力を使い、この地域に現れる”社巣魔”しゃすまを駆逐してきました。」

「じゃ毎回八人選ばれてきたって事?」

「いえ、本来はわたくし達の家の者だけでしてきていたので、1~2人いれば十分でしたわ、けどここ最近社巣魔しゃすまの現る数が劇的に増えてしまいました、そして私の占いに寄ると近々大きな最悪が怒ると出ているので、今回は特例で全ての珠を使う事に決めたんです。」

「そうだったんだ。」

「うん、セシルの話だと、1年に1匹現れるくらいだったらしいのだ。」

「しかもそんな明らかに黒幕的な男まで現れた、なので改めてお願いします、この地を守る為わたくしに力を貸してください。」

「もちろん。」

「まぁもう足突っ込んでしまったし。」

「うちはかまわないよ。」

「うん、やろう!」

五人は笑顔でそう誓い合った。


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チャリン、チャリン。

暗い道、金属のぶつかり合う音が聞こえてくる、その音は巨漢の男から聞こえてくる、歩いていた男が足を止めた。

「ん?どうした剣 万次足けん まんじそく。」

男の視線の先に背中に幾本もの剣を刺した長髪の男が現れる。

「奥方様に聞いたぞ、今度はお主が出るそうだな。」

「ああ、この輪具僧りんぐそうついてお許しが出たのでな、どうせ相手は小娘風情何も気負う事もあるまいて。」

「ふ、その油断が仇とならぬといいがな。」

「ふふ、それは自分の経験故の発言かな。」

「貴様!!」

「ははは、別に其方を愚弄してはおらぬよ、それに聞いてみろリングも綺麗に鳴いておる。」

そう言って輪具僧りんぐそうはチャリンチャリンと音を立てながらそのまま歩いて行ってしまう、万次足まんじそくも反対に歩いて行ってしまう。


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「ふ~んこの珠がねぇ」

自宅に帰ったカガヤは神具に付いている珠を眺めている。

時間も夜九時を過ぎ、食事もお風呂も済ましたのでのんびりしている。

「南総里見八犬伝だったけ?どんなんだろう。」

カガヤはパソコンを付け南総里見八犬伝のHPを探して読んだ。

「何々、江戸時代後期、滝沢馬琴たきざわばきんにて作られた小説、馬琴が48歳から75歳の間に描かれた物語、ってすごいな。」

感心して読み続けるカガヤ。

「え~と八個の珠は八房の子を宿した伏姫の腹から飛び出し各地の飛び散った、ってなにそれ」

カガヤはHPで感心していると。

『カガヤ!起きてる?』

突然神具から千星から声が聞こえてくる。

「千星?どうかしたの?」

『パトロールをしていたら社巣魔しゃすまが現れたんだが、何体がいるようなのだ、すまぬが手伝って欲しいのだが。』

「うん、わかった」

『すまん、ウチの学校に来てくれ。』

了解と通信を切ったカガヤは、神具を大きくし首に巻いた。

開権犬実かいごんけんじつ

そう唱えるとカガヤの服がキュオーンデアの衣装に変化していく。

「じゃちょっと行ってきま~す。」

布団を膨らませダミーにして、部屋の電気を消したカガヤは窓から学校の方に飛び上がった。


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キュオーンデアの脚力により簡単に学校に着いたカガヤだが、高い位置から校庭で戦う千星とテイラの姿が見える。

戦っている社巣魔しゃすまは三体いるようで、三体とも2mくらいの大きさだ。

見た目は大男の様だが服は着ておらず、顔は馬と鳥と豚だ。

カガヤは武器を出し、そのうちの一体に斬りかかった。

「カガ、いやレッド来てくれたか!」

「レッドってそれ決定なの?」

昼間に言っていた千星の提案が継続されていたことにあきれるカガヤ。

「二人ともまだ終わってないよ」

テイラが二人に注意する。

たしかにカガヤが切った豚顔がすでに回復している。

「なにこいつら、回復早くない?」

「あぁさっきから斬っても殴ってこの調子なんだ、角もまだ見つれられないし。」

「私が一気に細切れにしてやろうか!」

カガヤが刀を前に向ける。

「いや、三体もいるんだ、破邪犬正はじゃけんしょう中に倒せなかった事を考えると先に角を見つける方が大事だろう。」

「ガァァァァ---!!」

鳥顔が三人に向かって拳を振り下ろしてきた。

「やらすか」


ガッキン


鳥顔の拳を腕にある手甲で受け止めるテイラ。

それを合図にするように後ろから馬顔が襲ってくる。


ゴッキン


しかしその馬顔の突進を顎を蹴り上げて千星が止める。

馬顔は吹き飛び後ろに飛んでいく。

馬顔の吹き飛びを見て、鳥顔も後ろに飛ぶ。

「先ほどかこの通りなんだ」

「連携で来るって事か。」

「ウガァァァ----!!」

こちらを威嚇するように三匹が吠える。

「向こうは三匹、こちらも三人じゃそれぞれやっつけようか」

「じゃあたしは鳥」

テイラは鳥顔に向かって殴りかかる。

「拙者は馬にしよう」

千星は拳を前に構えると手甲から光る手裏剣みたいな物が馬顔にいくつも飛んでいく。

「じゃ私は豚か」

カガヤは刀を構え地面を蹴って豚に突撃する。

「大塚流!向日葵ひまわり!」

カガヤは体を大きく回し豚顔に斬りかかる。


ズザン


豚の肩から腰が切り裂かれる。

「どうだ!!っい!?」

豚顔は何事もなかったようにカガヤの方を振り返り、傷もあっという間に修復されていく。


「ブロォォォォアァァァ!!」


豚が吠えながらカガヤに拳を振り下ろす。

しかしそれをいとも簡単によけるカガヤ。

「強いわけじゃないけど、これだけ早く回復するとやっかいかもね。」

「そうだろう、それにいくら探しても角が見当たらないのだ。」

たしかにカガヤもずっと体を見ているが角がドコにも生えていない。

「けどどこかに絶対あるんでしょう?っつ!?」

何かに足を取られ尻餅をつくカガヤ。

「ガァアァアァ!!」

襲いかかる豚顔の攻撃かわすカガヤ。

「いったぁ~、なんなの。」

カガヤは自分が足を引っかけた方をみると細い何かがある。

目で追いかけると豚顔の背中からテイラの鳥顔の方に伸びている。

さらに鳥顔から別の細い物が伸びていて、千星と戦う馬顔の背中に伸びている。

「あった!!」

カガヤが見つけたのは馬顔の背中に伸びている細い物の先に角が生えている。

「そうか、わかった、こいつら自分の尻尾の先にある角を別のヤツの背中に隠しているんだ。」

そう、それぞの社巣魔しゃすまには尻尾がありそれが馬顔は鳥顔の背中に、豚顔は馬顔に鳥顔は豚顔の背中に隠しているのだ。

「夜だから尻尾がよくみえなかったのか。」

「それがわかれば!!」

テイラが鳥顔と距離を取り手甲を後ろに引いた。

「ドコにあるか教えてくれ!破邪犬正はじゃけんしょうぉぉ!!!」

テイラがそう唱えると手甲が光り出した。

破裂バースト!!」

テイラの手甲の腕部分から光が飛び出し、ロケットの様に吹き出し鳥顔に突っ込んでいく。

「そいつの左脇腹にあるぞ」

「了解!!」

勢いそのままに鳥顔の左脇腹に突っ込む。

銃弾バレット!!」

テイラの拳が鳥顔の左脇腹事その後ろにあった角もろとも吹き飛ばす。

「ギャァァァーー!!」

その途端、千星の前の馬顔が消えていき、豚顔の角が露わになる。

破邪犬正はじゃけんしょう。」

千星の鎌が光り出し、目の前の角を切り裂いた。

「ブルァァァァ!!」

今度は豚顔が叫び消えていき、鳥顔の角が現れる。

「しゃぁー!!破邪犬正はじゃけんしょうぉぉ!!」

カガヤの刀が角を真っ二つに切り裂き鳥顔の断末魔が聞こえる。

「ふーやったね」

「うん」

「うむ」

三人は近寄り、ハイタッチをした。

「ほほう、話に聴くほどではなさそうだな。」

三人は声のした方を見ると先ほども大男くらい大きな男がそこに立っていた。

坊主頭で先ほどの社巣魔しゃすま達とは違い人間な顔をしてはいるが、どうしてか違和感を感じる。

服はボロボロの着物を着て、首回りと腕周りに幾つもの輪を連ねたアクセサリーを付けている。

「拙僧の名は”輪具僧りんぐそう”と申す、お主達がキュオーンデアなる者達か?」

「これはご丁寧に、この社巣魔しゃすま達はお前の仕業か?」

「あぁそうだ、お主達がこいつらを退治してしまうから拙僧達も困ってしまうのだよ。」

困ると言った割には不気味に笑う。

「先日の”剣 万次足けん まんじそく”の件もかねてお仕置きをさせてもらう。」

輪具僧りんぐそうはそう言って腕を大きく振ると腕に着いていた輪が一斉にこちらに飛んでくる。

カガヤと千星は横に飛びそれをよける。

「こんな物」

テイラは手甲で輪を殴りつけようとするが、輪が突然大きくなりテイラの腕にはまる。

「な、なんだ」

突然テイラの腕の輪が浮かびレイラはそのまま宙に浮いてしまう。

「くそ、外せ」

しかし、また輪が左腕、両足にはまり、テイラは空中で大の字に拘束されてしまう。

「ふふふ、拙僧のリングは思い通りに動く摩訶不思議まかふしぎな道具よ、貴様ら全員覚悟せよ。」

「今助けるから待ってて。」

カガヤがテイラの元に走り出す。

「捕まった仲間を助けている場合ではないだろう。」

今度はカガヤにリングが襲いかかる。

「こなクソ!!」

リングに刀で斬りつけるが、


ガキン


カガヤの刀がリングに弾かれる。

「しまった」

「ふん!!」

カガヤの腕と足にテイラと同じようにリングがつき、空中に拘束される。

「くっそ」

「愚かなりキュオーンデア」

「まだ拙者がいるぞ」

一瞬の間を使い輪具僧りんぐそうの後ろに現れた千星が鎌で首に斬りかかる。


ガキーン


「ぐっ」

輪具僧りんぐそうの首に巻かれたリング達が千星の鎌をはじき額に当たる。

「言ったであろう、拙僧はリングを自由に操る事ができると。」

弾かれた勢いで影に逃げ込む千星。

「ほう、影に逃げ込むか。」

千星の姿が消えたことにより静けさと緊迫感が流れる。


ジャララ


輪具僧りんぐそうを鎖が拘束する。

「取った!!」

千星の鎖鎌の鎖が輪具僧りんぐそうを拘束し、千星が鎌で斬りかかる、が。

「!?」

千星と輪具僧りんぐそうの間にテイラが現れる、輪具僧りんぐそうが操作し間に移動させたのだ。

「危ない!」

「笑止」

テイラに躊躇した隙に、千星の足にリングがはまる。

「し、しまった。」

そしてそのまま三人が拘束されてしまう。

「ふん容易い、今回はこれを手土産にするとしようか。」

「この野郎外しやがれ!!」

「私達をどうするんだ」

輪具僧りんぐそうは不適にふふふと笑う。


パリン


乾いた音が鳴り、三人を拘束していたリングが割れる。

「わっ!」「えっ!」「あっ!」

三人は地面に落ちる、カガヤとテイラはそのまま着地したが千星は逆さ拘束の為頭から落ちてしまう。

「ん、何やつ」

輪具僧りんぐそうの視線の先を追うと屋上に人影が見える。

「ふふふ、貴方たち私が来たからにはもう安心して!!」

人影は不思議なポーズを取っていく。

「ねぇあれ、だれ?セシル?」

「いや、今日はもう休んでいるようだったし」

「貴様何やつ」

「あたしは誰が呼んだか『にゃんにゃん仮面』正義を気まぐれに行うわ。」

そう言ってにゃんにゃん仮面は手を顔に当てポーズを取る。

服装は恥ずかしくなりそうなくらいのミニスカートでアイドル見ないな服装だが、顔には猫をあしらったマスクを付けている。

「にゃんにゃん仮面?」

「ふー犬の次は猫か小癪こしゃくな。」

輪具僧りんぐそうがリングを屋上にめがけて投げる、にゃんにゃん仮面はさっとそれをかわしていく。

「お主達もだ」

輪具僧りんぐそうがカガヤ達にもリングを投げる。

三人ともよけて輪具僧りんぐそうに向かって走り出す。

「二人ともあたしの後ろに」

テイラが叫び一番前を走り出し、手甲を前に構えると不思議な光が広がり盾のようになりリングを弾いていく。

鬱陶うっとうしい」

輪具僧りんぐそうの腕にリングが集まり手甲の様になり、そのままテイラを殴りつける。


ガッキン


テイラは盾のまま殴られ後ろに吹き飛ぶ。

その瞬間カガヤが横から、千星が上に飛び出した。

「くらえ!!」

千星の鎖が輪具僧りんぐそうに投げられるが、輪具僧りんぐそうは横に避ける。

「吹き飛べ」

輪具僧りんぐそうのパンチが千星に伸びる。

「亜流!!苦参くらら!!」

カガヤの声とともに地面叩き、石つぶてが輪具僧りんぐそうに飛ぶ。

輪具僧りんぐそうは千星に伸ばそうとした手で石つぶてを払い、ふたたび千星に手を伸ばそうとすると目の前に千星が来ていた。

「もらった!!」

千星の鎌が輪具僧りんぐそうの体を切り裂いた、投げた鎖は鎌から伸びているのでその鎖を引き通常より早いスピードで切り裂いたのだ。

「グハっ」

「やった!!」

「ち、ふん」

輪具僧りんぐそうの周りから煙が吹き出た。

気がついたときには輪具僧りんぐそうの姿は消えていた。

「千星大丈夫?」

「拙者は平気だ、テイラは大丈夫か?」

テイラの方を向くと上半身を起こし手を振っている。

「あいつは逃げたのかな?あ、そういえばにゃんにゃん仮面は?」

三人は屋上を見てみるがその姿はないようだ。

「あの人何だったんだろう?」

「さぁ、もうつかれた、ここを直したら帰るようにしよう。」

「う、うんそうだね。」

そうしてまた一つの戦いが終わっていく。


第八話 完

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