第5話「趣舎万殊」

「あ、これ面白そう。」

相原 和歌は本屋で小説を見て回っていた。

四人でカラオケに行く約束をして、カガヤと悠は部活、エトラは用事の後合流する約束をしている。

明日は日曜で集合場所は家の近くの商店街なので八時までは構わないと親にも許可を取っている。

まだ時間のある和歌は商店街で好きな本屋巡りをすることにした。

「新刊出てるな~、へ~これは今度ドラマ化か。」

和歌はそう言いながら一冊の本を手に取り背表紙から内容を確認した。

和歌はそうして時間をつぶしている。

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エトラはファミレスの席に座っている、向かいにも客が座っているが年は30代後半くらいの男性のようだ。

「はい、じゃこれが今月分ですよ。」

そう言ってエトラは大きめの茶封筒を渡した。

「はいよ、じゃ中身確認するね。」

そう言って男性は中身を取り出したがそれはレポート用紙のようだ。

「ふーん、女子高生の間でギリシャ語ねぇ、デアってたしかに街中で耳にするね。」

「でしょ、最近のJKの流行り、周りの学校でのアンケートなど盛りだくさんだよ。」

「いつもありがとうね、うちみたいな小さな雑誌作るところはネタがないと困るからね。」

「まぁ現役のJKからの情報はありがたいでしょ。」

エトラはこうやって雑誌編集部などと交流をしている、そして情報の交換などもしているのだ。

「んで前に聞いたことわかりました?」

「うんちょっと面白い話があってね。」

「ほうほう、なんでしょう。」

そう言って二人は飲み物を口に運んだ。

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部活も終わり校門で携帯端末を片手に時間をつぶす悠。

「悠お待たせ!!」

声のする方を見るとカガヤが走ってくる。

二人は待ち合わせをして一緒に商店街に向かう約束をしていた。

「いや~カラオケなんて久しぶりだね。」

「うんカガヤ『しびる・はーと』歌うからね。」

しびる・はーとは悠の好きなアイドルグループである、悠は身長があり性格も男前な所があるので女子人気がすごいのだけど、本人的にはかわいい女の子に憧れがあるらしく、小学生グループで身長も低くかわいいしびる・はーとはかなりツボらしい。

笑顔で話す二人、商店街までは歩いて10分くらい二人は談笑しながら歩いていく。

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先ほどの本を買った和歌はまだ時間がある為商店街を歩いて時間をつぶしていた。

子供のころからなじみのある商店街、一人で歩くのは久しぶりだと実感していた。

「あれ?」

和歌はふいに違和感を感じる、周りに誰もいなくなりどういったらいいのか空気も変わった感じがする。

不安になった和歌は来た道を戻ることにした。

「・・・・・・。」

しばらく歩いてみたが、あきらかに先ほどまでいた商店街と違うと感じる。

ふいにカガヤの言っていたことを思い出す。

『その怪物は隙間の世界にいるんだけど、その世界なんか雰囲気が違うから不気味なんだよね。』

更に不安になっていく和歌、携帯端末を取り出しカガヤに電話をかける。

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「ん?」

カガヤは自分の携帯端末から聞こえるメロディに気が付く。

「ありゃ和歌からだ。」

悠も画面を確認している、カガヤは通話ボタンをおして耳に当てる。

「和歌どしたの?」

「カガヤ、ちょっと聞きたいんだけど、前に話していた化け物のいる世界ってどんな感じなの?」

「どんなって、なんか景色がぼやけてて、あきらかに変な世界だよ、ってどうしたの?」

「商店街歩いていたら、なんか変な場所に迷い込んだみたいなんだけど、誰もいなくて急にカガヤの言ってた事思い出したんだけど。」

その言葉を聞き不安になるカガヤ、子供のころからいる商店街で違和感を感じるなんておかしいと思うカガヤ。

「わかったすぐに行くよ、どこら辺を歩いていたの?」

「本屋を出てそのまま西口に向かって歩いて、そしたら。」

「不安だろうけど待ってて。」

カガヤは腕にある神具を触る、するとほのかに光だした。

「千星、セシル聞こえる確認したいことがあるんだけど。」

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写内しゃない商店街でですか?」

エトラは質問をオウム返しで答えていた。

「そうあの商店街で急にまわりに誰もいなくなってしまう事があるらしいんだ、話を聞いた人たちは不安になり引き返したり道を曲がったりして元に戻ったとは言っていたんだけど。」

「けどそれは裏道に入ったとか、時間的に誰もいなかっただけでは?」

「そうかもだけど、みんないつもの商店街じゃないと言ってたんだ、そして変な音も聞こえてきてすごく怖かったらしい。」

「変な音?」

ああと答え、男はメモ帖を開いて確認している。

「カツン、カツンっとタイルに固い物が当たる音らしいんだが、金属音でないらしいんだ。」

その話を自分の携帯端末でメモするエトラ。

「その音の正体わからないんですか?」

「あぁみんな確認できてないからね。」

そうかとエトラは頼んだカフェオレを飲み干した。

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「もしかしたら、そのお友達隙間の世界に入ってしまったのかも。」

セシルの声がカガヤに聞こえる。

すでにカガヤの恰好はキュオーンデアに変身していて、急いで商店街に向かっている。

キュオーンデアに変身しても周りには認知されないよう意識を集中すれば気づかれないようにもできる。

ちなみに悠は後から来てくれるらしい。

「じゃ私、商店を確認してみるから。」

「わかりました、気を付けてくださいね。」

そう言ってセシルとの通信は切れる、千星も来てくれると言っていたので問題はないだろう。

「和歌!商店街に付いたからもうちょっと待っててね。」

「う、うん、カガヤさっきから変な音が聞こえて怖いんだけど。」

「変な音?」

商店街を走り抜けるカガヤ目の前に違和感の空間が見える。

躊躇なく飛び込むカガヤ。

まわりを確認するとたしかに誰もいなくなっている、認知モードを解除し声を出す。

「和歌ー!!聞こえるー!!」

「カガヤー!!!」

少し離れた所から和歌が現れる、もう安心だよと抱きしめるカガヤ。

「とにかく出ようか。」

涙目で勢いよくうなづく和歌。

もと来た道を戻る二人、しかし出れる様子がない。

「ダメで出れない!ちょっと待っててもっかい聞くから。」

そい言って神具に触れようとするカガヤ。

「ねぇあれ。」

和歌がカガヤに聞く、振り向いたカガヤの視線の先に大きな影が見える。


カツン、カツン。


その影が歩くたびに音がする、どうやら足の爪と床のタイルがぶつかり出ている音のようだ。

その影は上半身は人間のようだが顔は狼のような見た目で下半身は蜘蛛のような足をしている。

「なにあれ。」

「あれが社巣魔だよ、ちょっと相手してくるから和歌は隠れていて。」

そういってカガヤは武器を剣を出し、社巣魔しゃすまに近づいていく。

「ごめんよ~あたし達迷ったみたいで、すぐに出ていくからどっか行ってくれない?」

カガヤは優しく声をかけるが、その声に社巣魔しゃすまに反応はない。

(まぁやるしかないよね)


ウォーーーーー!!!


社巣魔しゃすまが吼える。

その声を合図にカガヤは突っ込む。


ガッキン!!


カガヤの剣は地面に当たる、先ほどまでその場にいた社巣魔がいなくなっていた。

「どこに!!」


バキ!!


顔を上げたカガヤの顔面に痛みが走る。

だが変身している為それほどダメージはない。

すぐに身構えるカガヤだが社巣魔の姿は見えない。


バキ!!


またもや体に痛みが走る、今度は腕だ。


「にゃろ!!」

痛みの方向に剣を振るがやはり空を切るだけだ。

(は、はやい!!)

社巣魔しゃすまは目にも止まらないスピードで動いているらしく、よく見るとたまに地面で何かがはじけている。


ドカ!!

バキ!!


今度は胸と背中に痛みが走る。

(やばい!!こんなに続けられたら持たないかも)


そのあとも目に止まらない攻撃が続く、カガヤも剣を振るが当たらない。

(くそ!!こうなったら)

急にその場で姿勢を低くするカガヤ。

「大塚流剣術!!紫陽花あじさい!!」

カガヤがそう叫ぶと全方向に刃が走る!!

(!!手応えあった!!)


ザッ!!


カガヤの視線の先に社巣魔しゃすまが立っている。

カガヤの剣が当たったらしく腕に傷が見える。


ウガァァァァァ!!!!


社巣魔しゃすまは大きく雄たけびを上げまたもや姿が消える。

(もう一度紫陽花で!!)

また姿勢を低くし剣を構える。


カッン!!


社巣魔しゃすまの攻撃が手に当たり剣を落としてしまう。

(しまった!!)

すぐに拾い上げよう手を伸ばす。


ガッツ!!


伸ばした腕に痛みが走り体がのけぞる。


ガッ!!

ドカ!!


社巣魔しゃすまの攻撃がより激しくなり何発もの攻撃がカガヤに当たる。

(まずい!!)

終わる様子のない攻撃に体の痛みが大きくなっていく。


ドシュ!!


ぎぃぎゃぁぁぁっーー!!!!


突然社巣魔しゃすまが叫びながら床に転がる。

「大丈夫ですか?カガヤ。」

カガヤが声のした方に視線を向けると緑色の衣装のキュオーンデアが立っていた。

「セシル?」

そうそれは神社で指示をしてくれていたセシルの変身した姿だった。

カガヤの変身と基本衣装は同じだが手元の着物の長さ、靴もブーツではなく厚底靴のようなデザインで彼女の長髪によく合っていて、手には弓を握っておりそれが彼女の武器だとわかる。

「大丈夫なの?体調が悪いから家から出れないんじゃ?」

「今日は調子がよかったのでお助けに参りましたわ。」


ウガァァァーーーー!!!


倒れた社巣魔しゃすまも再び立ち上がっている、肩にはセシルの放った矢がまだ刺さっている。

「カガヤ私があいつの動きを止めるので、とどめはあなたにお願いします。」

「と、とどめってあいつ早すぎるよ、それにまだ角もみつけてないし。」

「角はお尻にありますよ、それにあれくらいの動きなら大丈夫合図したら突っ込んでください。」

そう言ってセシルが弓を弾くと光る矢が現れる。

それを合図にするように社巣魔しゃすまの姿が消える。


スバン!

無言のまま矢を放つ!

矢は地面に刺さる!

スパン!

また矢を地面に放つ、社巣魔しゃすまはまだこちらに攻撃をしてこない。

「今よ突っ込んで!」

「わ、わかった!破邪犬正はじゃけんしょう!!」

今度は矢が3本放たれる!!


ギャァァァーーーーー!!!


なんとセシルの矢が三本とも社巣魔しゃすまに突き刺さり姿を現す!


「てやーーーー!!」


カガヤの剣が社巣魔しゃすまの腰にある角を切り裂いた!!


「大塚流奥義、竜胆りんどう。」

カガヤがそうつぶやくと社巣魔しゃすまは消えていく。

「やりましたね。」

「う、うんありがとう。」

カガヤは内心セシルのすごさに驚いていた。

合図のタイミングもだが、あの動きの速い社巣魔しゃすまを的確に打つ抜いた腕にだ。

先に地面に放ったのも社巣魔しゃすまの動きが見えていて予測通路に放ったものだと思う。

「この隙間はあの社巣魔しゃすまが作ったものではなく、自然にできたものなので今千星が処理をしてくれているのであなたは帰って、私も手伝ってくるから。」

「いや私も手伝うよ。」

「あなたはお友達を脱出させてあげて、もう出れるからね、それにあなたが出ればもう消滅すると思いますから。」

そう言って飛び上がるセシル、カガヤはそれを見送くる。

「カガヤもう出てきていい?」

和歌が恐る恐る出てくる。

「うん、じゃ帰ろうか和歌。」

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「和歌大丈夫?」

悠に連絡をとり、カガヤたちは合流した。

「うん大丈夫。」

「あたしがついてるんだよ、心配しなさんな。」

胸を張って言うカガヤ、隙間の世界は二人が出たとたん消えてしまった、セシルの言うとおり千星が解除してくれたのだろう。

「カガヤかっこよかったけど、あの緑の人が来なかったら危なかったかも。」

たしかにセシルが来てくれなかったら危なかった、だが千星とは比べようがないほど強いと感じた、体が悪く泣ければ自分たちはいらないのではと感じるカガヤ。

「この後どうする?和歌怖い目にあったんだしいやならお開きにするけど。」

「ううん大丈夫、むしろ発散したいし行こう!」

そう言って笑顔で走り出す和歌。

三人はエトラと待ち合わせしているカラオケ店に向かう事にした。

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そこは暗闇、漂う不気味な空気の中、話し声が聞こえる。

艶美姫あでみひめおかえりなさいませ。」

怪しげなマスクを付け、赤毛の長髪を頭の上で束ね、大き目な着物がずり落ちそうに肩を出してきている『艶美姫あでみひめ』と呼ばれる女が現れる。

「今回は危なかった、けど気が付かれる前に隙間が消えてくれたからこれ幸いでした。」

「そのようですな。」

そう答えたのは剣豪『剣 万次足けん まんじそく』、衣装は侍のようだが肩が豪華に飾り付けられ、腰や背中に何本もの刀を差していて、長髪をポニーテールのように結っている。

「しかし、まだまだ時間はかかるでしょうなもし。」

巨体のわりにかわいくもし語尾を付ける『輪具僧りんぐそう』、名の通り腕や首にいくつものリングを付けている、風貌は僧のイメージどうり坊主頭であるが、身体は逆三角形の膨れ上がる筋肉。

「ママさびしかったよ。」

ママと呼び艶美姫あでみひめに抱き着く『ジュリア』、小さな背に大きなツインテール、衣装は和服とゴスロリを合わせたような衣装、しかし顔には騎馬のついた凶悪なマスクを付けており右目しか見えない。

「ふふ、もうすぐよジュリア、それまで待ちましょう。」

暗闇は四人をつつみ、視界が暗くなっていく。


第伍話 完

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