第4話「戒驕戒躁」

「ごめんなさい!!」

今日もセシルの家に集まるカガヤと千星。

カガヤは深々と頭を下げ謝る。

「連絡無く戦ったのは問題はありますが、無事でよかったです。」

セシルは特に怒ることもなく、カガヤの実を案じてくれた。

自分たちの変身をエトラたちに見られたことはすでに千星が説明をしてくれたようで、

そちらはこってり絞られたのか千星が静かだ。

「まぁそこに現れた社巣魔しゃすまは倒せたならよかったは、それで確認だけどその社巣魔しゃすまを倒した人は"女性"で間違いないのよね。」

「え?まぁモヤがかかっていたからはっきりとは見えなかったけど、あの後一緒に言っていたみんなに確認したら、私服の女子がいたって、けど顔は帽子で隠れていてわからなかったって。」

セシルはそうと言って少しうなずいた。

「確かに映像確認してもそんな感じでしたしね、角が複数ある場合もあると伝えきれてなかったし、とりあえずこれでわかったでしょ?社巣魔しゃすまと戦う時は連絡をしてくださいね。」

カガヤははいと反省の返事をした。

「そう!そのまま社巣魔しゃすまが暴れていたら、現実化してこちらの世界にも物理的な被害があるのだぞ。」

「えぇさすが一度物理的な被害を出した事があるだけに説得力があるわね。」

セシルのその言葉に、踏ん反り帰っていた千星は前のめりになっていた。

ちなみに最初にキュオーンデアが目撃されたのはこの事件の事だとの事、幸い怪我人はなかったとの事。


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「面!面!!めーん!!!」

カガヤは自宅にある剣道道場で一心不乱にけんを振っていた。

ずっと竹刀を振っていたのが分かるように、体中から汗が流れていた。


「カガヤ?」

男性の声が聞こえる、声のした方を見ると見慣れた顔がそこにあった。

「あっあらわ。」

近所に住む海兵 あらわが道場に顔を出す、服装もいつもの制服ではなく、ラフな普段着だ。

「おばさんから飲み物渡すように言われたから、休憩しない?」

「あ、うんありがとう。」

カガヤは竹刀を置き、置いていたタオルで汗を拭き露に近づく。

道場に腰かけた二人はコップに麦茶を注ぎ、一気に喉に流し込む。

「・・・・・・なんかあったの・」

「・・・・・・まぁちょっとね。」

恥ずかしそうに答えるカガヤ。

「まぁなんかあったら言ってよ、一緒にお風呂にも入った仲だし。」

「いやいや君、それは幼稚園の頃でしょが、それにそうゆうのは男子をいじめる為に女子が言うんですよ。」

「ははは、やはりいじめっ子はカガヤなんだね。」

少しいつもの調子を取り戻したカガヤ、あらわも嬉しそうに答える。

「大丈夫だよ、うまくできなかっただけだから、もう問題自体は解決しているし。」

そうかとあらわは答える。

「じゃこれは片づけておくよ。」

そう言って入口の方に露は歩いていく。

あらわ!」

「ん?なに?」

「ひさびさに一緒にお風呂に入る?」

「な!何言って!」

「きゃははは!!そうその顔!!やはりこのセリフは女子が言ってこそなのだよ!!仕返しだよあらわ!!」

「もう!!また明日ね」

道場から少し離れ、振り返るあらわ

ふと片手で自分の顎の髭をなぞる、そして少し笑いながらカガヤの家に食器を持っていく。


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学校の科学室に集まる、カガヤとエトラ、和歌に悠。

科学室は新聞部の部室で部長のエトラがカギを預かっているため昼休みなどはこっそり利用できたり出来るのである。

「例の美少女戦士がカガヤだったなんてね。」

「いや止めてよ悠、恥ずかしくなっちゃうよ」

エトラは千星から聞きたいことは聞いたらしく、カガヤに聞いたのは大したことはなかった。

カガヤもすでにエトラと和歌には知られてしまっていたから悠にも事情は話していた。

「んでその社巣魔しゃすまっていうやつを倒すんだよね。」

「そうだよ、んでエトラ約束どうり私たちの事は秘密だからね。」

「わかってるよ、私だってなんでもかんでも報道するわけじゃないよ。」

千星との相談でカガヤ達の事はエトラは伏せてくれると約束してくれた。

「それに私を味方にしたのは大きいよ、私の情報網を使えば色々なことがわかるからね。」

エトラは胸を張って威張っている。

「けど本当に危険じゃないの?カガヤにもしもの事があったらと思うと心配だよ。」

「千星たちの話だと変身すれば隙間にいる社巣魔しゃすまにやられることは基本無いんだって。」

本当に?と心配する和歌。

「けどかっこいいよね!ねぇカガヤ変身して見せてよ!ここならだれもいないし。」

「それはダメだ。」

ふと四人以外の声が聞こえてくる、その声をきき顔を覆うカガヤ。


ボンっ!!


カガヤ達が集まっていた机から煙が勢いよく舞、晴れてくるとそこに千星が立っていた。

「そなたたち、あくまでこの神具は悪しき社巣魔しゃすまを討伐する為にあるのであって、見世物にするものではないぞ!!」

背の低い千星が机の上で説教しても、お人形さんみたいでまぁかわいいかわいい。

「千星さん、なんで入口から素直に現れないのかな?」

「拙者は忍び!煙の中現れるのがロマンであろう。」

なかなか残念な子と思うカガヤ達。

「大丈夫だよ、見世物じゃないことは重々承知しています。」

「ならいいのだが。」

「カガヤ、この人がもう一人の人なの?」

唯の問いにそうだよと答えるカガヤ。

「煙玉からの頂上とか、本当に忍者だね。」

フォローするように声をかける和歌。

「まぁけどバレたのがあたしだったのは大きいよ、あたしなら情報網があるから、変な事があったら連絡が届くよ。」

自慢するように言うエトラ、一学生がどんな情報網をもっているのだろう。

「けど、社巣魔しゃすまが現れたらわかるんじゃないの?最初に会った時連絡受けて社巣魔しゃすまと戦っていたし。」

学校で千星が連絡を受けた事を思い出して問いかけるカガヤ。

「あ~、確かにセシルは社巣魔しゃすまについて連絡をくれるが・・・・・・。」

言葉が曇る千星。

「ど、どうしたんですか?」

「セシルは占いが趣味でな、占いで社巣魔しゃすまの出現を見たりするのだ。」

「へーあの時もそれで、すごいじゃん、けど商店街の時とかは聞いてないけど?」

「その占いは的中率が1割なので・・・。」

「1割?ってほとんど当たらないのでは・・・。」

「けどな!確率が0ではないから参考にはなるのだよ!!実際それで見つけたこともあるし!」

無意味に探すより、1割でも的中するのならマシという事なのだろう。

そのまま雑談は続き、エトラたちは私たちに協力してくれることを約束してくれた。


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放課後、部活に出たカガヤだがいつもの元気がないのを見抜かれ皆に心配されてしまう。

片付けもかまわないから早く帰れと、追い出されるように部室を後にする。


ピーン、ピーン


左腕にハメている神具じんぐが光る。

右手で球の部分を触ると声が聞こえてくる。


「カガヤか、今よろしいか?」

「うん、今から帰る所どうしたの?」

「セシルから連絡があって、中央公園に社巣魔しゃすまが現れるかもしれないからと連絡があってな来てくれないか?」

「・・・それって占いで?」

「うむ、セシルからの連絡だからそうなるな。」

約10%の確率に駆け付ける千星には感心する、ただ前回の失敗もあるためすぐにむかうとカガヤは通信を切った。


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「とくに変わったところは見えないね。」

一見して見回すことのできない公園ではあるが、特に変な雰囲気もなさそうだと声をかけるカガヤ。

「まぁまだ確認しきったわけではない、もう少し見て回ろう。」

カガヤも了解と一緒に公園を歩いて回る。

平日の夕方なので人もちらほらしかいない、『社巣魔しゃすまは人の多い所に現れやすい』セシルのその言葉を思い出す。

「ねぇ千星、人が少ないってことはいないんじゃないの?」

「うむ、だが人がいなくても現れることはあったのでな。」

そうなんだと目を凝らして探すカガヤ。

カガヤの中で前回の失敗を取り戻したいと思いがある為、見つけたいとカガヤは思っていた。

「・・・・・・・。」

千星の足が止まる、カガヤも千星の視線の先を見ると細身の男性が立っている。

「どうしたの?」

「・・・もしかして当たりかもしれんぞ、とりあえずさりげなく声をかけよう。」

そう言って二人で男性のもとに近づく。

「失礼。」

「こんにちは。」

二人は後ろから男性に声をかけると、ゆっくりと男性は振り返る。

「なんだい君たち。」

ザラザラした低い声で男性が聞いてくる、カガヤには何か不気味なものを感じてしまう。

「いや、道をたづねようとしたのだが。」

「はぁ敬語ぉぉ!!!目上の者に敬語も使えねぇのかあぁぁ!!!」

そういったと思うと千星に殴りかかって来た。

千星は横にさっと避け、カガヤも反対側にかわす。

「なに避けてんだよおぉぉぉ!!躾なんだから、ちゃんと受けろよぉぉぉ!!!」

理不尽なことを叫ぶ男性。

二人は逃げるように男性から離れる。

「千星これ?」

社巣魔しゃすまに寄生されている、額に生えている角が見えるし。」

以前にセシルとかに聞いたが、社巣魔にも色々なタイプがあるとの事で、こうやって人に寄生し負の感情を増幅させるタイプもいるという。

「この手のタイプはどうするか覚えているか!」

「本当に社巣魔しゃすまが寄生しているか確認して、つのを破壊すればいいんでしょ?。」

千星は正解と言って、神具を腕から外す。

カガヤも同じく神具を外し首輪に変更させる。

男性の姿がない事を確認して首輪を装着する。

「「開権犬実かいごんけんじつ」」

光に包まれ二人の姿が変身する。

「どこだぁぁっぁぁ!!」

男性の声が聞こえる、二人は額にあるティアラに触れると目を覆うカバーが現れる。

その状態で男性を見ると不気味なモヤが体から洩れている。

「確定だね、よしあの人から社巣魔しゃすまを出そう。」

そう言って武器を出し、つっこむカガヤ。

「ま、まって!!」

千星の注意も聞かず、男性に向かっていくカガヤ。

破邪犬正はじゃけんしょう!!」

男性に寄生しているとはいえ、角を破壊すれば助ける事ができる、カガヤからは焦りが見える。

「大塚流剣術!!梔子クチナシ!!」

華麗にカガヤが剣を振るが、男性は人間とは思えないジャンプ力でそれをかわす。

「ち!!まだまだ!!燕子花カキツバタ!!」

追いかけるようにまた剣を振るが、


ガッキン


大きな音がする、男性の手が岩のようにゴツゴツに変形してカガヤの剣を受け止めている。

「くそ!!」

カガヤの剣から光が消えて、普通の剣に戻る!!

「さがれ!!それではしばらく破邪犬正はじゃけんしょうは使えない!あとは拙者がなんとかする!!」

「だめ!!あたしが倒す!!」

カガヤの剣が男性にまた振られるがことごとく受け止められる。

千星も突っ込んでくるが、その攻撃も器用に受け止めていく。


ヒュン


男性は大きく後ろに飛びカガヤ達から距離を取る。


「お゛ま゛え゛らぁぁぁ!!目上の人に手をぉあげるとはぁぁ!!」

男性の体がみるみる大きくなっていく。

あっという間にゴツゴツした岩人間の様な容姿になる。


「あ゛あ゛ぁぁぁーーーーー!!!!」

岩人間は奇声を発してカガヤ達に突っ込んでくる。

あまりの早さに剣で受け止めるカガヤ。

「ぐっ!!!」

元人間とは思えない力でカガヤを剣ごと吹き飛ばす。

「カガヤしっかり!」

そう言って鎖鎌を投げる千星。

鎖が岩男を拘束し、身動きを封じる。

「角は額だけだね、破邪犬正はじゃけんしょう!!」

今度は千星が光る鎌を岩男の額に切りつける。

岩男の角が吹き飛び、岩男はその場に崩れ落ちる。

「カガヤ大丈夫?」

千星がカガヤに近寄ると下を向いたままのカガヤ。

特に外傷はなさそうだが。

「ごめん、また役に立てなかった。」

「・・・しかたないさ、だが倒すことはできた良しとしよう。」

そう言って岩男の方を向く。

「?おかしい?」

「どうしたの?」

「なんで"元の姿"にもどらない?」

カガヤも男性を見るが確かに岩男の姿のまま倒れている。


ドゴっ!!


急に千星の周りの地面が盛り上がる、カガヤは盛り上がりのせいで弾き飛ばされてしまう。

「な、しまった!!」

地面は千星を覆いながら大きな岩男に姿を変えた。

千星は体の一部になったように身動きが取れない。

「千星!!」

岩男はあっという間に5mくらいの大男に姿を変える。

「油断したなぁぁ、危なかったから表面だけ残して地面に潜ったのさぁぁ!大人をなめるとそうなるんだよ!きゃははは!!」

岩男は狂ったような笑い声をあげる。

「く、くそう!!」

身動きのとれない千星が声を上げる。

「さぁそこの赤色!!お前にも折檻してやるうぅぅぅ!!!」

「・・・・・・・。」

「ははは!!怖くなって何も言えないかぁぁぁ!!もう泣いてもゆるさないぞぉぉぉ!!はははぁぁぁ!!」

「うるさーーーーーーい!!!」

カガヤは思いっきり叫ぶ!!

「ごめん千星!!あたし失敗取り戻したくて!!気持ちも落ち込んで・・・。」

「カガヤ。」

「だけどもういい、いつものあたしに戻る!!あんたはあたしが倒す!!」

「ははは!やかましい!!お前も押しつぶしてやる!!」

そういうとカガヤの周りの土が盛り上がりカガヤに覆いかぶさる。

「紫陽花!!」

カガヤがそう叫ぶと覆いかぶさりそうになった土がはじけ飛んだ!!

「な!!クソガキ!!」

「悩むのやめた!!落ち込むの終わった!!あたしはみんなを助けるキュオーンデアなんだ!!」

「みんなを助ける!!ガキが生意気言ってんじゃねぇ!!」

岩男の大きな拳がカガヤに伸びる!!

「生意気言うよ!!」

拳を上にはじくカガヤ!!

「あんたも助ける!!」

一気に間合いを詰めるカガヤ。

「まだ破邪犬正はじゃけんしょうは使えない、なら!!」

岩男は距離を詰められたことに焦り、左手をカガヤに振り下ろす。

「大塚流剣術!!芝桜しばざくら!!」

一瞬にして何本もの線が走り、左手がバラバラにはじけ飛ぶ。

「まずは地面と離さないと!!」

カガヤは一閃すると岩男の身体が地面から離れ空中に浮く。

その攻撃で千星も解放される。

「時間まで削るよ!!」

またカガヤの剣が何線も光、空に浮く岩男の体が削られていく。

何線も何戦も光が走り、岩男が元の男性のサイズまで削られる!!

「よし大丈夫あとはあたしが!!」

千星がそう叫び、カガヤは剣を止める。」

「千星お願い!!」

破邪犬正はじゃけんしょう!!」

千星二回目の破邪犬正はじゃけんしょうで鎖鎌が光り出す!!

「てい!!」

鎖が岩男に絡まり空中に制止させる。

「頂き!!」

千星の鎌が今度こそ岩男の角を切り裂いた。

鎖を外し、おちながら岩男は元の男性の姿に戻っていく。

落ちてくる男性を受け止めるカガヤ。

二人は男性を公園のトイレまで運び帰る事にした。


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あらわは机に向かって勉強をしていた、まだ夕飯までには時間もあるしという事で予習をしているのだろう。


ヴゥー、ヴゥー


あらわの携帯端末が震える、画面を見るとカガヤからのメッセージのようだ。

【窓から顔出して】

あらわが窓を見るとカガヤが立っていた。

「カガヤどうしたの?」

あらわはカガヤにそう問いかける。

あらわぁー!!ありがとうね!!」

「・・・もう大丈夫なんだね!!」

カガヤは大きくうなずき、手を振って家の方に帰っていった。

部屋に視線を戻したあらわは、ふと机に置いてある鏡をのぞき、顎髭あごひげを触る。

「・・・もっと男らしくならないと。」

あらわーごはんよ」

母親からの声が聞こえ階段を下りていく露。

不思議と足取りが軽くなったような感じがしていた。


第肆話 完

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