第11話 発狂
「……あら?朝御飯、足りなかったのかしら?ど、どうしたの?」
「……」
「……おう。た、体調は大丈夫か?」
「……」
「ちょっと!果物ナイフなんか持って、どこに行くの!」
「……」
「おい!馬鹿な真似はよせ!」
「……」
「お、落ち着いてちょうだい、だ、大丈夫だから、ね?」
「……」
「そ、そうだ、とりあえず、それを置きなさい……」
「……」
「わ、分かった、父さん達は、お前の敵じゃない。そ、そうだろ?お、落ち着いてくれ」
怯える両親の顔。
違う。僕を拒絶している顔だ。
僕を拒絶した彼女と同じ顔だ。
違う。あいつが居なければ、僕が彼女と……
彼女は僕だけに笑ってくれたんだ。
すごいと笑顔で言ってくれたんだ。
ノートを貸したことだってあった。
早く行かなきゃ。
僕は彼女に告白するんだ。
早く行かなきゃ。
何を話そう、どこに行こうか。彼女が待ってくれている。
早く行かなきゃ……
父さんの車になっちゃったけれど、良いよね。君は優しいから、きっと大丈夫。
早く……
あいつと彼女が結婚?違う、何かの間違いだ。
あいつは最初から、彼女を取るつもりだったんじゃないか?
僕なんかの告白が、上手くいく訳ないと、裏では笑っていたんじゃないか?
最初から僕のせいで彼女が泣くように動いて、泣いた彼女を慰める事で惚れさせる作戦だったんじゃないか?
「……最低だな。お前」
二年前から僕の頭に住み着いている、僕を拒絶するあいつ。
「僕が最低だって?」
何が起きたかも知らずに、僕の彼女とキスしやがって……
「最低なのは、お前じゃねえか!ああ!」
僕はお前のことを親友だと思っていたのに。
お前だけは、僕の味方だと思っていたのに。
彼女は騙されているんだ、早く誤解を解いてあげないと。そいつは僕を利用したんだ。
彼女を幸せに出来るのは僕だけなんだ。
頭が割れそうだ。おかしい。どうして彼女は僕を……
彼女は、ずっと携帯電話を見ていた。そうか、そうだ、そういうことなんだ。
あいつが彼女に何かを伝えたんだ。僕が襲おうとしてるとか、嘘を伝えたんだ。そうだ。間違いない。
彼女を助けなきゃ。彼女は騙されいるんだ。
「駐車料金は二千円となります!」
大丈夫、ここは僕が出すよ。
今、助けに行くから。
「それでは、ごゆっくりとお楽しみ下さいませ!」
大丈夫、今日は良い天気だし、告白もきっと上手くいく。
そうだ、大丈夫。何も問題ない。
ここを二人で歩いたんだ、懐かしいね。
君は恥ずかしがっていたけれど、僕にはちゃんと分かっていたよ、君は僕の告白を待っていたんだ。
だから緊張していたんだよね?大丈夫。僕は分かっていたよ。
僕も緊張して上手く気持ちを伝えられなかったけれど、大丈夫、色々調べたんだ。
僕がどれだけ君を好きかを、まだ伝えられてないんだ。
あいつなんかより、僕の方が君を好きに決まっている。
大丈夫。頭が少し重くて、何だか目も回っているようだけれど、きっと寝不足のせいだ。ちゃんと告白は出来る。
そうだ、あのテラス席で、もう一度、やり直すんだ。何もかもを。
ふらつく足でテラス席に何とか辿り着くと、全身が硬直して、鼓動だけが狂ったように踊り出した。
僕と彼女のテラス席に、あいつが座っていた。
彼女に蹴られた頭が激しく痛みだして、そこから全身に黒い怒りが流れた。
僕は、お前の、その爽やかな髪型が、ずっと嫌いだったんだ。
涙で視界がボヤけた、頭を打ち付けるような痛みの中で、霞むピンクのコートを何とか見つめていた。
そこに座って良いのは、お前じゃない。
「……プロポーズも下手なのよ」
プロポーズされた?違う、僕が彼女にするんだ。
「……嬉しそうにオッケーしてくれたじゃんか」
違う。彼女は僕の物だ。
「まあ、あなたらしくてよかったよ、ふふ」
彼女が、あいつにキスをしている。
止めろ……
止めてくれ……
「あああああああ!」
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