3章 値踏みローブ
第20話 鑑定
『彼』はゆらゆらと宙を流れずらり並んだ回収品を眺める。それに役人らしき連中が筆記具を走らせながらついていく。鍛冶ギルドや武器商人、運び手の刑軍の面々が入り乱れる中『彼』の一団には誰もが道を空ける。
「次はクラウスの部隊の回収品じゃな。どれどれ……このロングソードは1万ゴールド。まあ普通の品じゃ、鍛冶ギルドにやって鋳直し。この鎧は……3万ゴールド。良くない鉄じゃが紋章がついとる。交差した槍と竜の紋章はドバン家、北地区に屋敷があるから持ってけ。身内の遺品じゃ」
「貴族の鎧だ!3万はないだろ!」
丁度居合わせた巨漢の男が文句をつける。白いシャツ、こげ茶のボトムスに濃紺のロングコート。刑軍の1人だ。彼が見つけてきた品なのだろう。鑑定額に納得がいかないようだ。
「ノット。紋章は勘定には入れん、こんな刺繍はちょっとの糸で作れてしまう。家の格は政治で使われるものじゃ。次」
『彼』はそう諭して鳶の羽があしらわれた皮のブーツを眺め鑑定を進めている。後ろに控えた役人たちもこういった対処は管轄外と言わんばかりに無視を決め込んで仕事を続けている。
「へっ火でもつけてやろうか雑巾が」
無精に生えた顎髭を撫でながら刑軍の巨漢は吐き捨てるが、そこがまずもっての境界線だったようだ。その場が一瞬にして静寂。作業している全てが時間を止め『彼』の動向に聞き耳を立てる。お付きの役人たちは仕方なさげに巨漢を見据えた。
「……儂はお前の名前だけじゃなく言葉鍵も知っておるが?」
「っ……!」
死をもたらす『刻爪の呪い』をちらつかされ容易く悪態を封じられ、巨漢は為す術がなくなる。役人の「騎士を呼びますか?」という問いに『彼』が応える前に「いらねえよ!」と巨漢はどかどかと囚人街に戻っていった。
「ふむ……では次」
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