第17話 モンスターハウスー復路
ヨカゼ・トウドウはプラプラの明かりを黒紫のアンデッド軍団に照らしながらなお前へ進む。そして敵を数歩ずつ追いやり私たちと無事に合流した。復路となる階段への道もそのまま開いている。こんななんて事もない光が一人の援軍を私たちに届かせたのかとアイナは剣を構えたまま口が塞がらない。
「油断するな、少しの時間鈍るだけだ。光で倒せはしないし慣れれば襲ってくるぞ」
「おお!」それで十分とばかりに護衛達は吠えた。遅れはしたが訳知りの男の登場に希望が灯る。彼の行進で崩れた敵の列を整わせはせぬと前掛りに攻めた。
「闇の魔法への解決策は光や炎であることが多い。松明で叩くのは悪くはないが、消えやすいし火力が足りない」
「た、助かった。感謝する」エリオも態勢を直し再び片手で剣を持ち上げ、肩に担ぐようにして上段に構えた。
「デカい声が聞こえたが、相手に家の名前を唱えるのは流行りか?貴族の騎士様は影から税でも取る気で?」
「じ、冗談言ってる場合じゃ――」とこんな事態でアイナは頬を少し赤らめる。
「経験から言わせてもらえば、冗談が聞こえない軍は負け濃厚だ。これはアンタが持て」
ヨカゼはプラプラの吊るされたバックパックを下ろし逆側の側部に備えていた剣だけ抜いて、アイナに渡した。
「二刀流……?上での探し物ってプラプラの事ですか……?」
「そいつを見つけたのは着いてすぐだ。無駄光しないように中で寝せていた。サルベージではまず明かりを確保しろ、昼間でも。今探してきたのは蝋だ。バックに入ってるからそいつに食わせ続けろ、光が強くなる。あと別に二刀流じゃない。必要なことをするだけだ」
すぐに手を突っ込み中でいくつも転がっている蝋を取り出すと、クケケケケケ!とプラプラがやかましく鳴きだし上蓋が勝手に空いた。そこに蝋を落とすとたちまち光量が上がり眩いほどだ。プラプラも喜んでいるようで鳴き声もさらに大きくなり敵の軍団もさらに怯む。
「それで戦士連中と外に出れるだろう。行け。外でも油断はするなよ」
「待って、あいつが!」とエリオが奥に駆けだそうとするのをヨカゼが肩を掴み止める。
「お前はこいつを連れて行くんだ」とイライジャを指す。いつの間にかほとんど意識が無いようでぐったりと壁にもたれかかっている。腹の流血はさらに悪化し白いシャツの下半分は赤一色だ。
「おああああ!この犬っころお!」
一番奥で魔狼の群れを器用に引き受けていたビリーだが、距離があった故に光の援護が弱く、その数の不利についに耐えかねた。魔狼が松明を持っていた手に噛みつき狂ったように頭を振る。
手斧で必死に首を落とそうと叩き、がんがんがんと数発同じ個所を強打すると魔狼の首が半分裂け振り子のように体が揺れたのだが、しかしその牙は死してなお決して離さず深く手に食い込んでいた。
そしてビリーが動かなくなった魔狼の頭を振りほどこうとぶんと腕を回すとあろうとこか狼の頭と一緒に左手も飛んで行ってしまった。
ビリーはエリオと同じように左手を失ってしまった。
「はっはっは……おいガキ!超痛えなこりゃあ!」
戦いの高揚により痛みと怒りが笑顔によって表出した彼は、残っている魔狼を一匹蹴っ飛ばし悠然と皆の戦列に戻ってきた。エリオはイライジャに肩を貸し歩き始めていたが振り返り、こいつも魔物なのではといった風な顔で眺め、ドン引きしている。
「殿をやる趣味があったとは」少しふらついたビリーの腕を掴み支えた。大分無理をしたようで体のあちこちに牙の跡が残っている。
「うるせえ遅刻野郎!」
「その分働くさ。後は任せろ」
**
「お前たちも早く上れ!」ヴェルネリが一番奥の2人を呼びつける。
戦士の壁とプラプラの光で道がつくられている。ディンゴに先導されて負傷が酷い2人はすでに地下倉庫を出る階段を半分ほど登っていた。アイナも光で援護しているが既に一段目に足をかけている。
そして負傷者が上り切るのを確認するとフラクもアイナの命でその横を駆け抜け、外の安全を確保しに段飛ばしで上っていく。ヴェルネリが最後まで盾となっている状態だ。そろそろ敵も照らされることに慣れ、じりじりとまた間合いを詰めてきている。
「アンタが行けおっさん、俺がこいつ等を斬る。モンスターハウスのアンデッドは高位の術者が仕掛ければ数日存在を維持させる場合もある。このままにしては作業が出来ない」
「扉に蓋をすればよい!魔術の効果が消えるまで待つのだ!」
「それは御免だね」ヨカゼは軽く肩を回し準備運動でもしている様子だ。
「何言ってるんですか!わざわざ危険を選んで戦うなんて!」
「できんのか?」
「ああ」
「じゃあ任せた」ビリーはそれでもう振り返ることなく上って行った。
「ち、ちょっと。意味がわかりません!命令です。戻りなさい!」
「騎士殿。刑軍を監督する立場なら覚えておけ。とりあえず3つだ」
「はい!?」
「1つ。刑軍は懲役金を減らしに来ている。自由になるためにな。今ここを確保しなきゃ分け前が減る。中継地から医者を呼ぶときに増援の刑軍も新たに来るからな」
ビリーが止めない理由はそれか。ヴェルネリは合点がいくもため息が交じる。
「お金なんて言ってる場合じゃ……!」成果が欲しい。その一点でさえ私と彼らとはこうまで執心の格が違うのか。
「2つ。サルベージした物は帰還するまでは好きに使う。だから金目だけじゃなく生き残るための道具も集める」
男はカタナではない、回収物であろう錆びた剣を振り感触を確かめる。
「最後は何だ?カタナの」ヴェルネリが半ば呆れて急かす。
「俺の懲役金は3億だ。だから無茶をする」
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