第8話 刑軍との対面
「アイナ殿。刑軍馬車の外鍵を開いて降ろしてまいります。いいですか、貴女の手勢ではありますが油断はしないように。かといって無下にもされず、距離感の取れた付き合いを意識するのです。一つコツをがあるとすれば、『罪人』ではなく『刑軍』として扱うのです」そう残しクラッキオが馬車に近づく。
「が、頑張ります」
輸送隊長は難しいことを言うが、今からそれをせねばならない。ガチャガチャと鍵を開けられているのを見ると無性に心臓の音が響く。彼らは一般に言う悪党で、それを従える。私に出来るだろうか。渡された資料は読んだが、文字から得られることなどたかが知れている。適当に書かれたことかもしれないし。
しかも、資料の中には一人破格の囚人がいた。
歴戦の戦士である年長の護衛さえその囚人のことを気にしていた。他の3人も、アイナ自身も共通の不安事項だった。個人の事情に配慮してか公にしたくない事実があるのか、罪の詳細な内容は分からなかったがその囚人の罪状は反逆。
そして懲役金の額たるや凄まじく実に3億ゴールド。
3億といえば実際に財産として持てばこの地方ならもう生涯働かずに済むだろう。他の囚人はどれも500万に満たない懲役金で盗みや詐欺の罪。だからいいということでは決してないが、想像がつく。対処できる並の人間ということを想定できる。
だが反逆とは具体的には一体何を?殺人でも安く裁定されれば1000万程度で済むのに。……領主の命でも狙った?
思わずレイピアを握りしめたくなる。護衛たちには剣を構えさせたい。
でも彼らは新たな仲間で、そんな警戒する姿を見せるわけにはいかない。肌が粟立つのをそのままに備えてしまっては威厳にもかかわる。
アイナは人懐っこく振舞うのにも慣れているつもりだが、規格外の囚人相手となると先入観に気持ちを押されてしまっていた。
止まった馬車の扉に巻かれた仰々しい鎖は如何にも悪党を押し込めているという外見をしていて、その鎖と錠を外した輸送隊長はうざったいように取っ手を引く。そして間髪も要れず中へ向けて説明を始めた。誰に対してもせかせかしている男だ。
「刑軍の諸君。君たちのは担当はこのオギカワ砦の南側。指揮官はあちらにおられるアイナ・コーエン卿だ。南門に馬車を付けたので入ってすぐがサルベージの対象となる。食料は3日分だが帰還のタイミングはコーエン卿が任意で決定する。すぐ側の中継地で私の輸送隊も控えている故、集めた荷を預けるなり補給を受けるなりしてサルベージを予定以上に続行する事もあり得る」
4人の囚人が馬車から降りてきたが、一様に鎧もなく兜もない。白いシャツにこげ茶色のボトムス、それに濃紺のロングコートを羽織っている。囚人服というよりはちょっとした旅衣装。そしてそれぞれ一振りずつ武器を持って例のバックパックを担いでいる。
クラッキオのひとしきりの説明にも「はいよおっさん」「ここは旨そうだな」「女の騎士だぞ」とマイペースを崩さない様子だ。
アイナは手元の刑軍リストと降りてくる彼らを照合しながら迎えた。
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氏名 バート・グルーバー
懲役金 78万ゴールド
罪状 詐欺
使用武器 槍
探索評価Dクラス
特記事項 無し
氏名 ビリー
懲役金 480万ゴールド
罪状 窃盗
使用武器 斧
探索評価Bクラス
特記事項 傭兵団『トワイライト』の元団員 イライジャの兄
氏名 イライジャ
懲役金 480万ゴールド
罪状 窃盗
使用武器 斧
探索評価Cクラス
特記事項 傭兵団『トワイライト』の元団員 ビリーの弟
氏名 ヨカゼ・トウドウ
懲役金 3億ゴールド
罪状 反逆
使用武器 カタナ
探索評価 Sクラス
特記事項 転生者 出身『ニホン』
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転生者……?。ニホンなんていう都市は聞いたことがない。
とにかく今のところは狂人の類でないことを祈るしかない。
「ほ、本日から刑軍指揮官に任じられましたアイナ・コーエンです。よ、よろしくお願いします」
「言うまでもないが、『刻爪』を発動する権限もコーエン卿にある。既に言葉鍵は領主より伝えられているため命令には確実に従うように」
「ち、ちょっとクラッキオさん!私は刻爪を使うつもりなんてありません!」
「……というお優しい方を怒らせないようにな諸君」
刻爪という言葉にびくりとしながらも自己紹介をするアイナだったが、彼らは兵士の規律などどこ吹く風だった。
小太りの槍を持った男バート・グルーバー、質の悪い林檎を高級品として売りさばいた詐欺罪。40近くに見える油っこい顔。彼は降りてすぐにきょろきょろと辺りの品定めを始めている。
兄弟で顔もよく似た2人、ビリーとイライジャ。30歳前後だろうか。どちらも手斧を持っている。作業としては掘ったり扉を壊したりがあるだろうし、ああいった得物が向いているのかも。元傭兵が盗賊に身を落とし、その日暮らしで目の前の物を盗み続けついには刑軍に。
そして、癖のある黒髪をした剣士。3億の男。歳は私より4つ5つ上くらいか。私のレイピアほどではないが細身の剣。「カタナ」は確か此処よりさらに東にある国の珍しい武器。他の3人と数歩距離を取り、異邦の得物に揃いの所作なのか滅んだ砦に向かって手を合わせている。
彼も含めこの4人は今から私の部下になる。
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