3話

 ◆◇◆◇◆◇◆◇


 学校は嫌いだった。


 別に、おかしな事ではないだろう。逆に、この世界に学校が好きな人がいるのなら、その理由を聞いてみたい。


 小学校の頃、美緒はどうだっただろうか。


 あまり思い出せない。良い思い出がないからだろうか。


 父と母が離婚したのが、小学校に入る少し前だった気がする。


 母子家庭で育った美緒は、色々と不便だった。人気のお人形や、習い事、みんながやっていることを、美緒は制限された。


 仕方がない。幼い美緒は、子供心にそう思った。


 だけど、高校になってから思うのは、理不尽だったと言うことだ。


 親の都合で離婚して、子供に不自由な思いをさせる。


 もちろん、今ならお金が大変だって言うのは理解できる。女手一つで稼げる金額は、たかが知れている。それは理解は出来るが、そこをなんとかするのが、親の役目だとも思う。


『女手一つで育てたんだから』


 大嫌いな言葉だ。『育てた』、とは何様のつもりだろう。親が子供を育てるのは、世界共通の常識だ。それを、やってあげたんだから感謝しろ、とばかりの言い草。やって当然のことをしただけなのに。


 それなのに、世間からは偉大な女性だと評価されている。


 確かに、ワンポペ育児と、仕事の両立は大変だ。それは分かるのだ。だけど、過大評価されすぎだと思う。いや、美化されすぎと言うべきか。


 そもそもの原因はなんだ。


 離婚が原因だ。


 死別などで、シングルになるのは分かる。そればかりは仕方ないと思う。


 だけど、性格の不一致、DV、浮気、etc……。


 お互いあっての離婚は、自身のせいとしか言い様がない。結婚して、子供を産むまで、相手の事が分からなかったと言うことだろう。もしかすると、結婚生活事態が悪かったのかもしれない。それを、相手のせいにして離婚する。


 結局は、自分自身が一番悪い。結婚相手を選んだ自分が悪い。


 全ては自分のせいなのだ。


 元凶、原因は自身の選択。


 それを、子供に押しつけるのは、あまりにも身勝手だと美緒は思う。


 この世の中、子供の理屈では、ままならない事が多いと言うことは分かっている。だが、子供の身になってみると、理不尽だと思わざる得ない。


 もし、両親が二人揃っていて、普通の家庭でこの年まで育ったとしたら、美緒はもっとまともで、ちゃんとした高校生活を送れていたと思う。


 美緒は小さく舌打ちをして、シャープをノートに押し当てた。僅かな抵抗の後、芯が折れて隣の机へ飛ぶ。隣の男子生徒は、美緒が飛ばした芯に気が付いていない。


「ん?」


 美緒が見て居たら、隣の男子生徒がこちらを向いた。美緒が微笑むと、男子生徒は嬉しそうに笑い返してくる。


 咳払いをして、美緒は前を向く。


 教師が教科書を呼び上げながら、数式をホワイトボードに書いていく。


 ぼんやりとその後ろ姿を見つめていた美緒の視界に、慧の横顔が入った。


 斜め45度。少し離れてはいるが、慧は真面目に授業に打ち込んでいる。


 昨日、マジマジと慧を見たが、やはり整った顔をしている。男らしいとはちがう、女性のような面立ち。


 昨夜は、あまりよく眠れなかった。詩織と無料通話アプリで話し込んでいたことも原因だが、それよりも、偽りであっても、慧と付き合うことになったからだ。

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