4話

 ◆◇◆◇◆◇◆◇



「イェ~~~イ! おめでとう!」


 慧が出て行って一分もしないうちに、静寂が破壊された。


 手を叩きながら、昌利が出てきた。彼は満面の笑みを浮かべている。


「…………」


 美緒は胸いっぱいに貯めた二酸化炭素を一気に吐き出した。


 緊張した。でも、告白は成功した。


 不思議と心が満たされた。最初はなんて下らない最悪な罰ゲームかと思ったが、美緒は罰ゲームに勝った。見事、告白に『OK』をもらい、晴れて彼氏彼女の間柄になった。


「……とりあえず、これで次は夏祭だな」


 吐き捨てるように言うのは、この罰ゲームの考案者である克巳だ。何故か、彼は不機嫌そうだった。


「何不機嫌になってるのよ? あ、もしかして、美緒に彼氏が出来たから、妬いてるんでしょう?」


 笑いながら、詩織が克巳の肩を叩く。克巳は舌打ちをして「ちげーよ」と答える。


「何言ってるの、詩織。そんなわけないでしょ?」


 美緒は肩をすくめる。


 克巳はそんな美緒を見て、僅かに顔を伏せた。


「兎に角、これで条件は揃ったから、あとは恋人ごっこをして、夏休みを過ごすわ」


「夏休みの前に、期末テストがあるでしょう? いいな~、美緒は頭の良い彼氏に勉強教えてもらえるんでしょう?」


「え? 私生活も一緒に過ごすの? イヤよ、佐藤、いや、慧君(・・)とはそこまでべったりしたくないしね」


「え~! 佐藤、可愛そうなんですけど! キスとか、せめて、その大きなおっぱいくらい揉ませて上げたら?」


「絶対に、イヤ!」


 大声で叫んだ美緒は、皆と一緒に笑った。その時、何かが窓ガラスに当たる音がした。


 見ると、ガラスに水滴がつき始めた。見る見る水滴の量が多くなり、雨音が聞こえてきた。


「あ~、降り出してきた。ねえ、雨が止むまで近くの喫茶店で時間潰そうよ」


「賛成!」


 美緒は手を上げる。克巳も、昌利もつられて手を上げた。


「良し! じゃあ、美緒の初彼氏とのデートプランを考えましょう!」


 詩織が張り切る。


「必要ないって、プライベートまで一緒に過ごしたくないし」


「あれ? 美緒って、初彼氏だっけ?」


 詩織に言われ、美緒は小首を傾げる。ある男性の顔が頭に浮かんだが、あの関係は『恋人』という関係ではない。考えてみると、今まで告白されたことはあったが、タイプではなかった為、全て断ってきた。特定の異性といるよりも、こうして友人とワイワイやっている方が今の美緒には楽しかった。


「ん~、言われてみれば、初めてかも! 初彼氏が慧君か~、冴えない~」


 言いながらも、美緒は明日からの学校生活が、いつもと違う風景になることを期待した。この、マンネリ化しつつある高校生活。目標も何もなく、ただ無為に毎日を過ごすだけの日々からの脱却。それこそ、美緒が、このメンバー全員が望んだ事だったのかも知れない。

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