第184話 さんこう(美久里)

「誕生日会?」

「そう。友だちが誕生日会やりたいんだってさ」


 朝、美久里が自分で準備したパンを口に入れていると、美奈から唐突に誕生日会の話が出た。

 美久里と美奈の誕生日は近くないから、美奈の友だちのだれかのお祝いをするのだろう。

 それをなぜ美久里に話すのかはわからないが。


「それでさ、プレゼントあげることになったんだけど……どういうのがいいのかわからないんだよね〜」

「そういうの、私にはもっとわからないよ……?」


 本当になぜ、こういうことを聞いてくるのか。

 それなら、他の友だちに聞けば解決しそうなものだが……


「わ、わかってるよ……でも、おねえの意見も聞いてみたくてさ。今度一緒にショッピングモール行こ」

「ふぇっ!? なんでそうなるの!?」


 ショッピングモールといえば、人がうじゃうじゃいる空間だ。

 そんな場所に連れていくなんて、美奈は悪魔なのかもしれない。

 美久里は人混みが大の苦手だというのに。


「おねえの意見も参考にさせてよ……お願い」


 涙目で懇願してくる美奈を見放すことはできず、覚悟を決めてショッピングモールについていくことにした。

 美久里はつくづく妹に甘い。

 それは、美久里もちゃんと自覚している。

 自覚はしているが、甘やかさないという選択肢は湧かなかった。


 いつも美久里は美奈にお世話になっている部分が多いから。

 妹がいないとだめだめで、美久里は妹離れができないでいるのだ。

 見放されて困るのは……美久里の方だ。


「じゃあ、いつ行こうか」

「それならさ、今日はどうかな?」

「今日は学校あるし……あ、でも、今日の方が平日だし人混み少ないかな……?」


 人混みの少なさは最重要だが、たまにはこうして姉妹でお出かけの予定を立てるというのも、悪くはないのかなと思う美久里であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る