第185話 ごかい(朔良)

「朔良、お行儀悪いっすよ?」

「学校だしへーきだろ。葉奈って意外に真面目だよな」

「……意外ってどういうことっすか」


 昼食として買ったパンに豪快にかぶりつきながら、スマホの画面を凝視する。

 そこには、瑠衣から送られてきたメッセージが大量にある。


『さくにゃんは瑠衣のこと、どう思ってるにゃ?』


 その中でも、特に目を引いた一文を心の中で読み上げる。

 普段なら軽くあしらえるメッセージなのだが、なぜか今日はふざけた返信を許さないという圧を感じた。


『お前はどう思ってんだよ』


 だから、そうやってはぐらかすしかできなかった。

 というか、こういうことは直接口で聞けばいいんじゃないかと思う。

 遠恋中のカップルじゃあるまいし。


「お、朔良の卵焼き美味そうっすね」

「は? ちょっ、こら! 勝手に食うなよ!」

「ほら、美久里もどうぞっす」

「やめろよ!」


 葉奈に楽しみに取っておいた卵焼きを取られながら、瑠衣のことについて考える。

 メッセージをやりとりしている瑠衣の態度が、最近おかしい気がする。

 どことなく素っ気ないというか、朔良を避けているというか。


 とは言っても、直接そのおかしな態度を見たわけではない。

 少なくとも、対面して話す分にはいつもと変わらない。

 しかし、メッセージアプリで絡む時には、少し様子がおかしいと感じる。


 リアルでは素を出せないが、ネットでは本音をさらけ出せるみたいな……そんな感じが。

 瑠衣がそれに当てはまるのかはわからないけれど。


「最近の瑠衣ってどこかヘンっすよね。ぼーっとしてること多いっすし」

「だよね。なにかあったのかな……?」


 葉奈と美久里の話を聞いて、ふと思い出した。

 確か、瑠衣を家に招いた時。

 オリジナルの小説を書いていたノートをしまうのを忘れて、うっかり瑠衣に見られてしまった。


 その時に、急に瑠衣の頭からボンッと爆発音が聞こえたかと思うと、瑠衣がすぐに帰ってしまったことがあった。

 その小説のヒロインが『ルイ』という名前で、ごてごての恋愛を書いていたのだ。


 朔良はそれに気づくと、あわてて瑠衣のいる教室に駆け込み、必死で誤解を解いた。

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