第170話 さみしさ(紫乃)

「紫乃ちゃん、大丈夫……?」

「うぅ〜……大丈夫じゃないかも〜……」


 紫乃は熱を出してしまっていた。

 最近はずっと健康で風邪引くこともなかったのだけど。

 どうしてこうなってしまったのか。


 今日は美久里と遊ぶ日だったから、連絡入れてドタキャンしようと思っていたのに。

 なぜか連絡を入れたら家まで飛んできてくれたのだ。

 優しいというかお人好しというか。

 いい子すぎて、紫乃は色々と不安になる。


「あの……なにかしてほしいこととかあったら遠慮なく言ってね! 紫乃ちゃんに早くよくなってほしいから……!」

「ありがと〜……助かるよ〜……」


 でも、身体が弱っているとはいえ、してほしいことはなかなか思いつかない。

 それよりも今はただ、そばにいてくれるだけでよかった。

 弱っている時は人肌が恋しくなる。というより、いつもより孤独に感じてしまう。

 だから、美久里が来てくれてとても嬉しく思った。


「でも、うつるといけないから〜……あんまり僕のそばにいない方が……」


 美久里の優しさはありがたいが、うつすことになってしまったら申し訳ない。

 大切な友だちだからこそ、両方の思いが並行する。


「うーん……それじゃあ、買い出し行ってくるよ! なにか食べたいものある?」

「え……」


 気持ちは嬉しいし、美久里なりに色々考えて出した結論だろう。

 そう言うのが一番正解なのではないかとすら思う。

 だけど、そうすると、一人になってしまう。

 親もいるとはいえ、同年代の子がいてくれた方が心強いというかなんというか。


「ど、どこにも行かないで〜……」


 紫乃は気づいたら涙目で懇願していた。

 なんてことだ。いくら誰かにいてほしいとはいえ、涙目になってしまうなんて恥ずかしすぎる。

 これには美久里も目を丸くしている。


「……うん、わかった。紫乃ちゃんのそばにいるよ」

「え、ほ、ほんと〜……?」

「どこにも行かない。約束する」


 美久里の言葉はとても重く響いた。

 それは、紫乃を安心させるのに充分すぎるほどだったのだ。

 “あの子”に似ているからというのもあってか、紫乃の心は満たされた。


「ありがと〜。へへ、嬉しいな……」


 我ながら言っていることがわけわからない。

 だけど、紫乃はだらしなく頬をゆるめ、美久里と一定の距離を保ちながら会話を楽しんだのだった。

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