第二章 高校二年生(二学期)

第161話 くらやみ(葉奈)

「葉奈ちゃんの新作もよかったよねー!」

「まさか馬がメインのお話とは……ラノベではなかなか見ないですが、それが斬新で面白かったですね」

「葉奈の文体のよさが存分に出てた感じがするよな」


 今日は久しぶりの学校。

 みんなと会うのも久しぶりで、葉奈は少しだけ緊張していた。

 今更緊張というのもおかしな話だが、どうにも休み明けが慣れない。


「葉奈ちゃんはどんどん先に行っちゃうよね〜。なんかちょっと寂しいな〜」

「はなにゃんは天才だもんにゃ。でも、しのにゃんも負けてないと思うにゃ」

「ほんとすごい才能だよね。ボクも見習ってドラゴンと話せるくらいにはならないと……!」


 新学期が始まったというのに、みんなは葉奈の新作に夢中らしい。

 ちなみにこれが発売されたのは、夏休みが始まるか始まらないかくらいの頃だ。

 それなのに、まだ熱が冷めてなくてこんなにも盛り上がってくれるとは。


「ふふん。うちのすごさ思い知ったっすかねぇ」

「プロデビューしてる時点で思い知ってるっての……」


 朔良はどこかくやしそうにしながら葉奈の才能を認める。

 朔良も他のみんなも葉奈のことを認めたり褒めたりしてくれているが、ここに至るまで色々なことがあった。もちろん、嫌なことも。


(まあ、みんなうちの苦労話なんて聞きたくもないだろうし、話さないっすけどね……)


 すっかり個性派の中でも個性派としてなじんでいる葉奈にも、それなりに嫌な過去というものはあるのだ。

 そう。あれは確か、中学に入ったばかりの頃だったような……


 葉奈はその頃、小説を書いても鳴かず飛ばずだった。

 まだデビューすらしていなかった時期だ。

 それでもデビューしたくて、公募に出したりWebの小説大賞に挑戦したりしていた。

 そんな時、公募先から連絡……じゃなく、評価シートが来る。


「……またっすか。もう落とされ慣れてるとはいえ、やっぱりきついっすね。というか来るの早すぎじゃないっすか? あ、そういえば二次の結果来るの今日だったっすね!?」


 葉奈は嘆き、叫び、机にキスをするように顔を埋める。

 ここのところずっとこんな感じで、落とされては突っ伏すことを繰り返していた。

 落とされるのは慣れているけれど、「次は」「次こそは」と少し期待していたのに。

 これを繰り返されると、気分が落ち込むどころの話ではない。


「あー、もうやる気なくしたっす。もう嫌っす」


 葉奈は自暴自棄になりながらも、新作の構想を練ろうとしていた。

 これはある種の職業病のようなものだと思う。

 だから通してくれてもいいだろうと、葉奈はいじける。


「はー……ん? あ、でも評価はいい感じっすね……ということは後ちょっとで行けそうってことっすよね……うおおお! やってやるっすぅー!」


 先ほどと打って変わって、執筆活動を地道に続けることを決意する。

 先はまだ暗くて見えない。

 だけどほんの少しでも光があるのなら、そこに向かって突き進むだけだ。

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