第162話 ぷれぜんと(瑠衣)
瑠衣は困っている。かつてないほどに。
何度も何人も欺いてきて上手くいっていたのに、そんな瑠衣が頭を悩ませるほどの強敵が現れたのだ。
「おーい、瑠衣ちゃん? まだ悩んでいるんですか?」
「ふにゃっ!? え、あ、だって色々あって迷うんだにゃぁ。そもそもここに来ていいのかどうかもわからなかったしにゃ……」
萌花が瑠衣の手元を覗き込みながら訊いてくる。
今日は萌花と二人でデート……お出かけをしているのだ。
その理由は、瑠衣が萌花と遊びたかったから。……というわけではなく、とある人へのプレゼント選びに萌花を付き合わせているというわけだ。
「もー、まだそんなこと言ってるんですか? いい加減腹括った方がいいのでは……」
萌花と出かけてから、いや出かける前から不安が尽きなかった。
いきなりプレゼントなんて怪しまれないだろうか。
そもそものことに悩んでいると、萌花がなにかを察したようにふふっと微笑む。
「……瑠衣ちゃんって人間関係に悩まない人だと思っていましたが……なるほど……そうなんですね……」
「な、なんなのにゃ……? なんでもえにゃん、ニヤニヤしてるにゃ……?」
「ふふっ、ごめんなさい。私と違うようで似ている、そんなところが面白くて……うふふっ」
瑠衣が問いかけると、萌花はもっと笑った。
しかも、よくわからない言葉と一緒に。
学校の成績はいい瑠衣だが、こういうことに対応できる頭のよさは持ち合わせていない。
「瑠衣にはもえにゃんの言ってることがわからないにゃ……」
瑠衣は困惑顔で萌花を見るが、萌花は笑ってばかりでなにも答えようとしない。
仕方ないからまたプレゼント選びに専念する。
とはいえ、なにを選ぶのが最適解なのかわからないままだ。
「うーん、このぬいぐるみストラップ可愛いにゃ……でも、あげる人が可愛いと思わないと意味ないよにゃぁ……アロマとかオシャレでいいよにゃぁ……あ、でも、アロマ使うのかにゃ?」
「ふふふっ。瑠衣ちゃんが一生懸命選んだものならなんでもいいと思いますよ?」
まだ笑いがおさまらない様子の萌花がアドバイスをしてくれる。
だが、笑っているせいで説得力に欠ける。
「もえにゃん……いい加減笑うのやめたらどうにゃ?」
「あはは。ごめんなさい。瑠衣ちゃんと似たもの同士だとわかったのが嬉しくて」
「……あ、そういうことなのかにゃ……」
瑠衣はようやく萌花の笑っている意味がわかった。
瑠衣も萌花も、人間関係に苦労してきて自分を塞ぎ込みがちだということ。
それに気づいた萌花が嬉しいあまりずっと笑っていたわけだ。
蓋を開けてみれば、なんてことはない。
瑠衣にもわかるほど単純で簡単なことだった。
ようするに、萌花は瑠衣と近い存在になれたのが嬉しいのだ。
可愛すぎて抱きしめたくなるが、自分を変えるために我慢する。
「似たもの同士って言うなら、プレゼント選び本気で手伝ってほしいにゃ」
「ふふっ、そうですね。仕方ないから手伝ってあげます」
「もえにゃん、いい感じに生意気になってきたよにゃ。そういうの嫌いじゃないにゃ」
似たもの同士の萌花とのプレゼント選びは、なかなかに充実していて楽しかった。
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