第141話 てすと6(萌花)

 中間テストの二日目がやってきた。

 8時頃、B組の教室では。


「おはよ、萌花さん。昨日はボク、ばっちり勉強してきたぜ」

「あ、おはようございます。私も、一生懸命ベストを尽くせるように頑張りましたよ」


 萌花は新たなクラスでできた新しい友だちと挨拶をし合う。

 その新しい友だちというのは、炎のように真っ赤な髪に紅玉ルビー色の瞳が輝いていて、熱血そうな見た目をしている。

 髪もショートだから、明るい王子様系のようにも見える。


 しかし、見た目とは反対に物静かな性格のようだ。

 まあでも、物静かというより――


「……ボクは勉強しなくても、ボクの中に眠る秘めた力でテストという怪物を駆逐してやれるんだがな」


 ――“厨二病”というやつなのだけれども。

 またも個性的な友だちが出来てしまったと、萌花は苦笑した。


 二日目のテスト終了後、二人は学校帰りに近くの公園に立ち寄った。

 公園と言っても、校庭ほどの広さもない小さな休憩所という感じだが。

 そこで二人は、今日のテストのことについて語り合っていた。


「数Ⅱも数Bも、ほんと難しかったな〜。もうどうにでもなれって感じ。今日は木々が騒がしかったから、嫌な予感はしてたんだが……」

「私も、今回は解答欄全然埋まらなかったです。数学って難しいですよね」

「わかってくれるか、萌花さん!」


 友だちは、萌花の小さな手をガシッと握る。

 いつメンの中では一番背の高い美久里よりも、その子は背が高い。

 だからその身長に相まって手も大きく、萌花の手などたやすく包み込んでいる。


「ボクはやれば大抵のことはできるんだ。でも、数学だけはどうにも苦手でさぁ……」


 その子は仲間がいる安心感からか、とても嬉しそうに話す。

 だが突然、ハッとした顔で手を離した。


「あー、ごめんな。ボクの神聖な手に触れていいのは神や天使くらいなんだけど……キミにはなにか特別なものを感じてしまって……」


 萌花にはなにを言っているのかいまいち理解できなかったが、とりあえず自分を特別視してくれていることだけはわかった。

 それがわかった萌花は、嬉しくなって微笑む。

 その笑顔は、いつもより眩しく写っていた……と思う。


「ありがとうございます。――ゆずちゃん」

「……ま、いいってことよ」


 萌花の笑顔を受けて、その子――柚は照れくさそうに頬をかく。

 そして照れ隠しなのか、柚は立ち上がって萌花に背を向ける。


「じゃあ、もう行こっかな。風がボクを呼んでいるからさ」

「あ、それなら一緒に帰りませんか?」

「……キミって、なんか調子狂うなぁ……」


 そう言いつつも、柚は萌花を拒まない。

 新しくいい友だちができたと、萌花はさらに笑みを深めた。

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