第137話 てすと2(葉奈)

 葉奈がA組の教室へたどり着いたのは、8時頃のこと。

 美久里も朔良も、珍しく先に教室に着いていたようだ。


「おはよっす。美久里、朔良」

「おはよー、葉奈ちゃん」

「はよ、葉奈ちゃん。お前勉強ちゃんとやったか?」


 挨拶して早々、朔良が痛いところを突いてくる。

 そんなことは聞かなくてもわかるだろうに。


「もちろんやってねぇっすよ」

「ドヤ顔でいうことじゃねぇ」


 胸を張って答えると、朔良が頭を小突いてきた。

 朔良は運動神経抜群だ。

 そんな朔良に暴力を振るわれると、たまったもんじゃない。


「いってぇっすよ、朔良!」


 葉奈は涙目で抗議するも、無駄だろう。

 朔良に都合の悪い言葉は届かない。

 もう素早く諦め、カバンを自分の机の上に置く。

 一応教科書等は持ってきたが、開く気になれない。


「あー、もう無理っす」


 葉奈は嫌気がさし、パラッと捲った教科書をすぐに閉じた。

 もうテストは諦めている。


「葉奈ちゃん、もうちょっと頑張ろうよ……」

「いやー、今まで勉強してないのに今更やっても意味ないかなと思ったんすよね〜」

「開き直りやがったな……」


 葉奈は二人の心配をよそに、スマホを取り出す。これは完全な諦めモードという意思の表れである。

 それをわかっているからか、美久里も朔良もなにも言わなかった。

 というより、自分たちのことで必死なのだろう。


「はぁ……ま、どうにでもなれっす」


 葉奈もすぐ二人に触発され、数Bの教科書を取り出す。

 そうこうしているうちに8時半のチャイムが鳴り、シスターがやって来た。


「おはようございます、皆さん。いつもようにリラックスして臨んでください。机の中、携帯の電源、確認はしましたか? ――それでは冊子を配ります。中に問題用紙と解答用紙がそれぞれ入っているか、チェックしてくださいね」


 シスターは終始朗らかにいう。

 生徒だけでは少し殺伐としていた雰囲気が、少し和らぐ。

 改めて、シスターの力の偉大さを痛感した。


「それでは始めてください」


 そして8時40分。

 チャイムの音とともに、シスターからテスト開始の合図がかかった。

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