第138話 てすと3(紫乃)

 試験時間は授業時間よりも5分長く、50分間設けられている。

 紫乃と瑠衣は、一問目から順番に手をつけていく。

 瑠衣は順調に解いているようだが、紫乃は進みが遅い。


(どうしよ〜……全然わかんない……)


 紫乃は英語が一番の苦手科目。

 そんな英語が初っ端から来て、嫌気がさしていた。

 紫乃なりに頑張って勉強していたのだが、苦手なものは苦手だ。急に得意になるわけがない。


(でも、このままだとどんどん時間だけが過ぎてく……赤点取っちゃうかも〜っ!)


 紫乃は想定外の難易度の高さに戸惑う。

 こんなことでは本当に――!


『大丈夫だにゃ、しのにゃん。困った時は――』


 9時半、試験時間終了を報せるチャイムが鳴り響いた。


「みなさん、シャープペンシルを置いてください。一番後ろの人が回収してくださいね」

「先生ー、あと5分だけ待ってくださーい」


 クラスメイトの一人が焦りの表情を浮かべながら挙手をして、シスターに懇願する。


「いけません。不正をすると全科目0点になっちゃいますから」


 シスターはにこにこ微笑みながら、クラスメイトに優しく注意した。

 瑠衣の助言を思い出さなければ、紫乃もそのクラスメイトと同じことをしたかもしれない。

 危ないところだった。


「しのにゃん、テストはどうだったかにゃ?」

「うーん……まあまあかな〜……」


 休み時間になり、瑠衣が紫乃の席まで駆け寄ってきてくれた。

 ベストは尽くしたが、自信はない。

 そんな紫乃の様子を察してか、瑠衣は突然、紫乃をぎゅーっと強く抱きしめる。


「ちょっ……! 瑠衣ちゃん……!?」

「しのにゃんは大丈夫だにゃ。もししのにゃんの点数が落ちても、瑠衣がまた勉強教えてあげるにゃ」

「う、あ、嬉しいけど……ありがたいけど……恥ずかしいから離れて〜っ!」


 紫乃は恥ずかしさのあまり、大声で拒絶してしまった。

 本当は、瑠衣に感謝しているのに。

 試験中に思い出した瑠衣の言葉。

 それは――


『焦らずゆっくりやるといいにゃ。瑠衣がついているからにゃ』

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