第136話 てすと(瑠衣)

 もう五月に差し掛かり、中間テストの初日がやってきた。

 午前7時半頃。瑠衣はいつもより30分ほど早く、朔良の家を訪れていた。


「おはよーにゃ、さくにゃん!」


 インターホンを押すと、朔良が出てくる。

 その顔にはくまができていて、寝不足なのが見て取れる。

 しかし、それには触れず、話を続けた。


「おー、さくにゃんもう制服に着替えてるんにゃね。今日は珍しく早起きしたのかにゃ?」

「まあな。……んー、じゃなくて、夜遅くまで起きてて寝れなかっただけ」


 カッコつけようとした朔良だったが、続ける気力もなかったらしい。

 それほど夜遅くまで勉強していたということか。


「まー、瑠衣のことだから、お前も夜遅くまで勉強してたんだろ?」

「ふにゃっ!? え? あ、そ、そうにゃ。天才は努力も怠らないものにゃよ」


 なにか元気づけようと思っていた瑠衣だが、朔良に訊かれて急いでノリに乗る。

 ……こういうところが悪いくせだと、つくづく思う。


 ノリに乗るというのは一種の演技だ。

 朔良は満足そうに笑って「瑠衣は頭いいもんな」などと言っている。

 朔良がそれでいいならいいのだが、やはり自分ではよくないなと思う。


「あー、えっと、さくにゃん。そんな無理しなくてもいいと思うにゃ。身体壊したら元も子もないにゃ」


 瑠衣がおそるおそる心配そうに言うと、朔良は目を見開いて驚く。


「成績悪いやつがテスト期間中に頑張らなくてどうするんだよ。赤点取れって言うのか?」

「ち、違うにゃ! 瑠衣はただ、さくにゃんのことを心配して……!」


 どうやら朔良は、瑠衣の心配を勘違いしているようだ。

 なぜこうなってしまったのだろう。

 しばらくの間瑠衣が慌てていると、朔良は突然「ぷっ」と吹き出す。


「ははっ。冗談だよ。ま、お前も無理すんなよ」


 声を上げて笑いながら、瑠衣の頭をぽんぽんと軽く撫でる。

 瑠衣は安堵したと同時に、少し不機嫌になった。


「……さくにゃんは意地悪だにゃ」

「あたし性格悪いからな」


 そんなような冗談を言い合いながら、二人は学校という戦場へ向かった。

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