第127話 いべんとごと(美久里)

 今日は土曜日。

 しかし今日の土曜日は、いつもと違っていた。

 葉奈が漫研のみんなで遠足をしようと言い出したのだ。

 もちろん旅行費は各自自腹で。


 それでもみんなは文句を言わない。

 みんな、付き合ってもいいと思ってるから付き合っているのである。

 美久里にはそれがわかり、思わず微笑んだ。


「萌花、お菓子持ってきた?」

「はい。もちろんです。たくさんありますよ」


 バスに乗り込んだ時、美久里は隣にいる萌花に話しかけた。

 萌花はリュックサックのチャックを開け、「ババーン」と言って見せびらかす。


「……まさかこんなに持ってくるとは思わなかったよ……」


 美久里は少し目を丸くし、呆れる。

 だけど、これはまだ想定内。

 宗養会の時は荷物が多くて、目的地に着く前からヘロヘロになっていたことがあるから。

 あの時と比べたら、少しは成長している……と思う。


「えへへ、すごいでしょう?」


 リュックの中身は、はち切れんばかりのお菓子類でパンパンに詰まっている。

 成長してるとは言いきれなくなってきた。


「萌花ちゃん、僕もこれはちょっとやり過ぎだと思う〜」

「やるっすね、萌花ちゃん。けど食べきれるんすか?」


 紫乃と葉奈は苦笑いしながら、前の席から覗き込む。


「だって、今回の遠足は値段制限ないですもん!」


 萌花はきっぱりと言い張った。 

 小学生の時に抑圧されていたのかもしれない。

 それならば、今のお菓子詰めバッグはおかしくないのかもしれない。

 ……よくわからないけれど。


「へ〜、こんなに持ってきたんだにゃあ。さすがもえにゃん」

「これはさすがっていうのか?」


 瑠衣と朔良も、後ろの席から覗き込んでくる。

 これがいつもの日常。イベントごとがあっても、それは絶対変わらない。

 みんなと一緒なら、どんなにありふれた日々も楽しく過ごしていける。


「萌花ちゃん、お菓子少しだけわけてくれない?」

「え? いいですよ。仕方ないですね」


 こんな風に、笑い合えるのなら。

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