第107話 ばら(朔良)

 今日は土曜日、瑠衣とデートをする日。

 デートと言っても、ショッピングモールに行って映画やカラオケを楽しんだり……要するに普通に遊ぶだけだ。


 だから現地集合・現地解散でいいのだが、瑠衣は「一緒にいる時間を増やしたい」と言うので、九時になったら瑠衣が朔良の家に迎えに来ることになっている。


 朝食をとった後、朔良は着替えを済ませて家のインターホンが鳴るのを待っていた。

 九時ピッタリになり、ピンポーンと音が鳴った。朔良は待ってましたとばかりに受話器をとる。


「はいはーい」

『さくにゃーん! 瑠衣だにゃー!』


 瑠衣の元気な声が響く。

 玄関の戸を開けると、案の定瑠衣の姿があった。

 きらびやかなドレスを纏った瑠衣の姿が。


「は!?」

「じゃじゃーん! ……おはよーにゃ、さくにゃん」

「お、おはよ……じゃなくて!」


 ……どういうことなのだろうか。

 なぜにドレス?


「瑠衣……」

「あ、さくにゃん。これバラの花束だにゃ」

「さんきゅ……ってか、突然どうしたんだよ瑠衣」

「いやぁ、さくにゃんとデートって考えたらこれしか浮かばなくてにゃ」


 とりあえず、現地集合でなくてよかったと朔良は思った。


「そういえば、それ着てここまで来たのか?」

「にゃ。花束もこれで買ってきたのにゃ」


 朔良はそれを聞いて、若干引く。

 何もそこまですることはないだろう。


「あ、一応この格好で遊びに行くのはアレだと思って着替え持ってきたから大丈夫だにゃ」


 そういう問題でもない気がするが、少しほっとする。


「えへへ。今日は『デート』だからにゃ、さくにゃんにもドキドキ感を味わってもらおうと思ったのにゃ」


 朔良は別の意味でドキドキした。


 瑠衣が家で着替えている間、朔良は花瓶にバラを生けていた。

 バラは色によって花言葉が違う。

 これは赤だから……『私を射止めてください』とか『模範的な愛』とかだった気がする。


 ――私を射止めてください。

 そう瑠衣に言われている気がして、朔良は少し頬が熱くなった。

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